ガンダム00

□一片の花弁
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(一期と二期の間/ティエリアとミレイナのお話です)





「見損ないましたよ、イアン・ヴァスティ。」
 ティエリアが言った言葉にイアンは顔を顰めた。
 気難しい奴だと思ってはいたが、顔を見るなりそんな事を言われる理由は思い当たらない。
「何だ、不躾だな。」
「彼女の事です。」
 ティエリアが言った『彼女』とは、最近このプトレマイオス2の乗組員になったばかりのイアンの娘、ミレイナの事だ。
 ミレイナがどうかしたのかと問えば、ティエリアはそんなことも分からないのかと言った風に半ば呆れた声を出した。
「あんな子供をCBの活動に参加させるなんて、あなたはそれでも親と言えるのか。」
 イアンは顰めた顔を真面目な表情に変え、見据える様にティエリアに正対する。
「それが一番いいと思ったからだ。お前さんの心配することじゃないよ。それに、フェルトが最初に仲間になったときだって、同じぐらいの年だったと思うが?」
 フェルト・グレイスは、優秀だから…とティエリアは言いかけて口を噤んだ。
 優秀さをいうなら、ミレイナも充分な能力がある。
 それでもそんな事に腹立たしさを感じるようになったのは、ティエリアが変わったからだろう。
 以前のティエリアなら、ヴェーダが推奨する優秀な人材であれば例え10歳の少女だったとしても何も感じなかったはずだ。
 理屈と自分の中の感情との折り合いの付け方がまだ分からないでいる。
「フェルト・グレイスは…ご両親が亡くなっていて、止める人間がいなかった。しかし彼女は違う。あなた方夫婦が心底反対すれば、止めることが出来る筈だ。」
「軽い気持ちで参加させてるわけじゃない。妻と娘と三人で、何度も話し合った結果だ。」
「ここに居るという事は、罪を背負うという事だ。分かっているのか。」

 その考え方も、以前のティエリアにはなかったかもしれない。
 愚かな人間の愚行を止めさせるための自分たちのミッションを崇高だと思いこそすれ、罪だなどという考えは頭の隅にも上って来なかっただろう。
 ただ知識として、ここに居る人間達がそういうものの考え方をしているのだと知っていただけにすぎない。
 それを罪だと思うようになったのはいつの頃からか、ティエリア自身、己の中で戸惑うことがある。
 それでも言わずにはいられなかった。
 信頼していた仲間であるイアンが自らの娘を人身御供に差し出したかのように見えてしまったことが腹立たしかった。

「分かっているよ。それでも、そうしようとわしらは結論付けたんだ。」
「…あんな子供をっ…。もういいっ!あなたとは話したくない!」
 そう言って去っていくティエリアを、イアンは困り顔で見送った。
 そういう批判は覚悟していた。
 しかし、最初にその批判をぶつけてきたのがティエリアだったのは意外だった。
「変わったな、アイツ。…ロックオン、お前さんの所為か?」
 もういない仲間に、イアンは話しかけた。







 それから暫く、ティエリアはイアンを避けるようになった。
 それだけではなく、ミレイナに対しても冷たく当たっていた。
 小さな失敗をねちねちと責めては、君はCBのメンバーに相応しくないと一蹴して見せた。
 ミレイナに音を上げさせて、ここから去らせようと思っての事だった。
「シミュレーションをこなせなかったらしいじゃないか。やはり、君はここに居るべきではないな。能力の足りないものが居ては足手まといだ。早々にメンバーから外れてもらいたい。」
「ごめんなさいですぅ…。でも、頑張りますですっ!」
「無能な人間が頑張ったところで知れている。諦める事だ。」
 そう言って背中を向けたティエリアの後ろで、ミレイナは唇を噛んで涙をこらえていた。







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