ガンダムSEED,DESTINY

□僕という登場人物
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(シャニ/現代転生パロ)


“コクピットを貫く。”その文を見た途端 物語への興味が失せて手にある文庫本を閉じた。仰向けなために、その向こう側にあった蛍光灯が顔を出したが電気は点いていない。だから眩しさに顔をしかめることもなく、そのまま頭の向こうへ本を放った。
あーあ、と唸った彼の表情は好きに伸びたような前髪に隠されて見えない。髪と髪の僅かな隙間から文章を読んでいたのはここ最近のことだけで、冊数にして五冊。読み掛けで辞めた今の一冊を抜けば四冊になる。それ以外で文章を読んだのは、せいぜい教科書くらいだ。つまり読書は趣味ではない。今回の本――長編であるこの物語にも実はほとんど興味が無かった。知人の話に適当に相槌をうっていたら押し付けられたから、暇潰しに目を通してみた。その程度。
閉められた窓から控えめな光が差し込んで、それは瞳を写し出した。掠れた呻きを上げて俯せの体勢になると、髪が視界を遮断する。今は昼間だっただろうか。家の外で甲高い声を上げている、あの子供達は鬼ごっこでもしているのだろうか。身体がだるい。
先刻漏らした「あーあ」という言葉には何も続けなかったし、頭の中でその意味するところを形作ることはなかった。けれど喉の奥で渦巻く靄は、確かな形に成ることを望んでいる。震えそうな感情はあってもそれは恐怖感ではなかったし、フラッシュバックで異常な苦しみや痛みに襲われることもない。自分が完全な別個体であることは目に明らかだ。
でもそれだって根拠になりゃしない。

「……しんだんだ…」

おれ。
喉の靄は全部、結局口にしてしまったその言葉の中に潜り込んで口から出ていった。代わりに微かに胸元にあった不快感に気付かされてしまう。音楽が聴きたい。でも今はそれさえ前世の模倣のようで気に入らない。
現世の自分はデスメタルどころか歌曲にすら免疫がない。クラッシックが好きだ。ただ、それ以外も聴かないわけじゃあないし、嫌いでもない。メタルほどの激しい音楽は聴いたことがないだけで、もしかしたらこれから好きになるかもしれない。前世だって、薬漬けになる前はクラッシックを好んだかもしれない。

それが自分だという確証は無い。無いが、そうであることは間違いなかった。前世だと見当をつけてはいるけれども、別次元、平行世界なんてものが本当にあるのならそちらの解釈のほうが正しいのだろう。
記憶もないし、その登場人物――シャニ以外の人物にはそれらしい覚えも愛着もなく ただのキャラクターにしか見えないから、たとえばクロトやオルガをこっちの世界で探してみる気なんて無い。文庫本の中で彼らがあの後どうなるかということにも興味が無い。そしてもうそこでは自分は死んでいるのだから、その世界なんて架空の世界と変わりないのだ。
それでもやはり気味は悪い。

「…うざぁ。」

頭を横にしたときに視界に被るこの髪を次は若緑に染めてやろうと思った。


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