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□愉快な仲間たち
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あのあと、小鳥遊くん以外にもフロアのバイトの子達と会った。

小学生みたいに可愛い種島さんと、帯刀してる美人で仕事のできるチーフの轟さん。ミステリアスな研修仲間の山田さん。

この時の私は、まだワグナリアの人たちのことを良くわかっていなかったわけで。のちのち、この店の連中は皆が個性的だと気付くわけで…。







「あ、今日は、伊波さんって人とかぶるんだ…」

シフト表にはまだ顔を合わしたことのない名前があった。

休憩あがり、そんなことを呟きながら、キッチンに向かおうとした私の前に、一つの影が飛び込んできた。







「きゃあああああああッ!!」

と同時に女の子の叫び声が店に響き渡る。












……?

…え、今何が起こったの…?





私がぽかんとしていると、叫び声を聞きつけた皆が休憩室に入ってくる。

「観月くんッ!大丈夫!?」

私は気が抜け、地べたに座り込んでいる。その姿をみた種島さんがいち早く、私の側に駆け寄ってきた。

「…お、おおお、おとこ……」

「あらあらまひるちゃん、またやっちゃった…?」

チーフがその少女に近付くと、彼女はチーフを盾にするかのように背中に隠れた。

「…???」

わけがわからない私は頭にたくさんのはてなマークを浮かべる。

「彼女は男性恐怖性の伊波まひるちゃん。怖さのあまり男の人を殴ってしまうくせがあるの…、許してあげてね?」

「いや、許される事じゃなくないですか、それ…」

苦笑しながらそう言ったものの、まだ心臓がバクバクいってる。あの背筋が凍るような恐ろしさは言葉にできない。








「また殴ったのか、伊波」

今さら登場してきた店長の言葉に伊波さんが反論する。

「な、殴ってません!!」

「「「え?」」」

皆が真顔になりその発言に耳を疑う。

「な、殴ろうと思ったんですけど…、なんか違和感を感じてすんどめしちゃいました…」

「人に殴られかけたのなんて初めてですよ!死ぬかと思いました!」

伊波さんの行動に思わず腰を抜かしていた私は、力強くそう言いながら立ち上がる。






「観月お前、殴られなかったのか?」

普段無表情な佐藤さんが意外にも目を丸くしている。

「え?そうですけど…」






あたりがシン、となる。

その静寂を断ち切ったのは種島さんだった。

「すごいよ、伊波ちゃん!!進歩だよ!」

「伊波さんをしつけた俺でなく、観月さんってのがどうもしゃくですがね」

「まぁまぁ、小鳥遊くん…、きっと小鳥遊くんがしつけたおかげだよ」

「しつけたって人を犬みたいに…」

「あぁっ、ごめん、伊波ちゃん、悪気はないんだよっ!?」







なにやら私のわけのわからんところで話は盛り上がり。
…とりあえず伊波さんとの出会いで私の寿命が縮んだのではないかと思った。
ここの男性陣は皆、普段からこんな恐怖を味わっているとゆーことか…。







「とりあえずお前ら、仕事に戻れ。」

手にしていたポテチを口に運びながら店長がそう言うと、それぞれが各自の持ち場に戻っていった。

残された伊波さんが、私の事を不思議そうな顔で見つめている。もちろん彼女と私には一定の距離があったのだが。

「あ、申し遅れましたが観月です。」

「伊波です…。あの…、」

「はい?」

「…なんで殴らなかったんでしょう私…」

「いや、それは自分に聞かれても…」

「なんか観月さんって、男の人なんだけど男じゃないというか…」



伊波さん、もしかしたら本能的に私のこと、女だって気付いてるのかも。

「それはたぶん自分が…」
「観月、なにやってんだー。オーダー入ったぞ」

キッチンから佐藤さんが呼ぶ声が聞こえてくる。

「今行きます!すいません、伊波さん、じゃあ今日からよろしくお願いします!」

そうして休憩室をあとにしたのだった。










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