Book

□同じ仲間
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次の日の放課後。
授業を終えた私は、そわそわしながら佐藤さんが待っているはずの校門へと向かっていた。

「優、今日バイト休み?だったらカラオケ行こうよ〜」

私を女だと知る、仲の良い友達に、後ろから声をかけられる。
もちろん、男子制服着用のせいで、私を女だと知らない人もちらほら。





「また合コン?」

と、私が問いかける。

「男のメンツが1人足りてないんだよね、行こうよ」

「誰が男だ」

「だって優、イケメンだから女子ウケいいんだもん。」

「はは…。でもごめん、今日は先約があって」

「え、何!デート!?」

「い、いや、何かよくわかんない。」

「何それ。」

「とりあえず迎えにきてもらってるんだけど…。あぁいた。あの車」

校門の前で車を停車させ、佐藤さんが中で携帯をいじっている姿がうかがえる。





「やだ、カッコいいじゃん!ってか車持ってる年上のイケメンの彼氏て!どんだけ贅沢なの、優!!」

「彼氏じゃないから!!」

「楽しんできなよぉ?明日話聞かせてよねっ。あ、あとカラオケ!次は付き合ってね!女子が優のこと待ってんだから!」

それだけ言葉を残すと、ニヤニヤした表情をして去っていった。完全に楽しんでるな、あれは。







コンコン、と車の窓を軽く叩く。ドアを開け、まずは挨拶。

「お、お待たせしました」

車に乗り込む。やっぱ二人だけの空間は緊張するなぁ…

「女子が待ってるとは人気者だな、イケメン君。」

「茶化さないでください!」

さっきの友達の話を聞かれていたようだ。

…にしても…、車内、もっと煙草くさいとおもったけど意外…。なんかいいニオイするし…ちゃんと整頓されてるし佐藤さんって綺麗好きなのかも。







「ってか、どこに行くんですか」

車を走らせてはいるものの、目的を知らされてないことを思い出す。

「……」
口を開こうとしない佐藤さん。

「変なとこはヤですよ」

「変とはなんだ」

「風俗とか?」

「馬鹿か」

「じゃあどこなんですか。せめて、何しに行くんですか」

「……勉強。」

は?
勉強?







結局、それしか教えてもらえず、あとは車内はたわいもない会話。
車で20〜30分くらい走っただろうか、来たこともない細道に入り、あるお店に出くわした。



「可愛いお店…!」

「入るぞ」

ログハウスの、暖かみあるお店だ。お花畑の中にある、小さな隠れ家みたいだ。なんだかワクワク心を掻き立たされる。





来たこともないお洒落なお店に感動していると、更に料理にも感動が!

「見た目も綺麗で、食べた事ない味です!美味しい!…これ、何のソースを使ってるんだろ…」

「オレンジのタルタルソース。」

「この酸味、オレンジでしたか!…んんっ!!これも美味しい!こっちの歯ごたえ、不思議!!何が入ってるんだろ…?」

「米粉でふわっとさせて、山芋でとろっとさせてる。」

「なんて面白い!!……あれ、なんで佐藤さん、そんなに詳しいんですか」

「俺のお気に入りの店だからな」

お気に入り…。
こんな素敵なお店知ってるなんて…。女の子とよく来たりするのかな。こんな店に連れてきたりしたら、女の子は喜ぶんだろうな…。さぞや、おモテになるでしょうに。





「ここによく来られるんですか?」

「ああ。」

「…なんで自分を連れてきてくれたんでしょうか?」

「…お前の夢、」

「夢?」

「俺と同じだったから…」










時は二、三日前にさかのぼる。
バイト中にチーフと話してる際に、将来の話題になったことがあった。



「観月くんは本当に料理が好きなのね」

「はい!小さい頃から親が家にいることが少なかったので、自分で作ってましたし。」

「えらいのねぇ。それで厨房のバイトを?」

「はい。あ、あと、来月から親の都合で、一人暮らししなきゃいけないんで…。お金もらいながら、好きな料理を作れるならホントありがたいことです」

「将来はそういう方向に進むのかしら?」

「…まだぼやっとした考えですが。自分の店を持ちたいんです」

「まぁ!すてきな夢ね!」

「そうですか?…大学行って経営学を学んで、自分の店を作る。そうなれたらな、って…」

「観月くんはしっかりしてるわね。応援するわ」











そっか、あの時の話を佐藤さん、聞いてたんだ。なんか照れくさい。

「俺も、自分の店を持つことを目標にしてる。」

「佐藤さんも、自分の店を…ですか…」

なんか嬉しい。佐藤さんを近くに感じられたような。同じ夢を持つ仲間ができて、絆が生まれたような…そんな感覚。






「お前はまだ若いだろ。今は、いろんなとこ行って、いろんな物を食う。それだけで勉強になる。」

「そのために自分を連れてきてくれたんですか…?」

「……他人事に思えなかったからな。」

ちょっと照れくさそうな表情をした佐藤さんが、煙草に手を伸ばす。

「吸ってもいいか」

「どうぞ」

ちゃんと人の了承を得て吸うところとか、紳士だなー。






「佐藤さん、ありがとうございます。本当に嬉しかったです」

「あぁ…。」

恥ずかしがってんのか、目を合わせようとしない。

「…また、どこか連れてってくれますか…?」

「お前が望むなら。」

私…幸せだな。こんな風に助けてくれる人がそばにいる。支えてくれる人がいる。

「でも…佐藤さんばかりに甘えてたら、佐藤さんご迷惑じゃないですか…?」

「お前は俺のペット。犬が主人に甘えるのは当たり前のことだろ」

あぁ、もう…。この人の言いなりになるなんてとんでもない!って思ってたのに。
"ペット"って響きが、なんだか嬉しくなってしまうよ…

「はい、よろしくお願いしますね、佐藤さん!」







そうして彼との夕飯を満喫したあと、佐藤さんは私の家まで車で送ってくれた。最後にもう一度お礼を言い、佐藤さんの車が去っていくのを見つめる。

なんだか本当にデートみたいだったなぁ…。
佐藤さん、私に夢を打ち明けてくれた。私、佐藤さんに心を許してもらってんのかなー、なんて淡い期待をしてしまう。



佐藤さんに一歩近付けた、そんな気がした―――。







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