短編
□ばかみたい
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とりあえず途方もなく廊下を歩く。
血がポタリポタリとこぼれる。
非常に申し訳ない。
あとで掃除をしておきますと心に誓った。
「なまえ!?」
後ろから声をかけられた。
あぁ、この声は…
『伊作…』
後ろを振り返ると、やっぱり伊作だった。
大量のトイレットペーパーを持っていたようだけれど、今はそのほとんどが床に転がっていて、当の本人は私をみて驚愕している。
私の目からは涙が溢れていた。
先程からの強い痛みと、伊作に会えた安心感でもう私の涙腺は容易く緩んだ。
「どうしたんだいその腕!!」
ハッと我に返ったように私に駆けよる伊作。
『実習で、ちょっと。』
そう言って笑って見せても、伊作は笑ってくれなかった。
「ごめん、俺さっき保健室を空けていたんだ。そして、破けた手ぬぐいと血痕があったから、それをたどってきたんだ。」
私の腕に布を巻く伊作。
その表情は自分を責めているようだった。
『・・・っばか、ばかばか!!』
せっかく私がさっき涙を流しても嗚咽を堪えて笑ったのに、なんで伊作がそんな顔するのよ。
「・・・ごめん。」
私が勝手に怪我をして、泣いているだけなのになんで伊作が謝るのよ。
『ばかみたいっ!!…ばかよ、本当。・・・なんで、なっ・・んで』
とうとう嗚咽が堪えられなくなった。
まともに喋るのが難しい。
怪我をしていない方の腕で溢れ出る涙をぬぐった。
『・・・ひっ・・・なぁ・・んで、いさ・・くがあやまる、のよ。』
思考も上手く働かない。
何を言おうとしているのか自分でもわからない。
次に紡ぐ言葉もみあたらない。
今の感情を表す言葉も、みつからない。
『わた、しが悪いのに…なんで・・・・』
伊作が私の腕に布を巻き終えて、私を真正面から抱きしめる。
「…ごめんね、怖かったろう。」
伊作は私の背中をポンポンと、赤子をあやすように優しく叩いた。
「俺が保健室にいれば、こんな思いはしなかっただろうに」
伊作の腕に力がこもる。
私も伊作の背に腕を回す。
『・・ごめん、・・も、う大丈夫よ・・・もう・・こわ・・くない、わ』
伊作の言うとおり、私は多分怖かった。
くのいちなんだから、こんな事を言っていちゃいけないんだろうけど、怖かった。
怪我をしたのも怖かったけれど、いつもそこにいる伊作がいなかったのが一番、怖かった。
「そっか、よかった・・・。もう少しこのままでいいかい?」
そういう伊作は少し泣いているようだった。
私は頷いて、伊作の胸に顔を埋めた。
伊作の息が耳にかかってくすぐったかったけど、伊作の胸は温かくて、いい匂いがしてすごく安心した。
「・・・なまえ、」
瞼が重くて、目を閉じるその前に伊作が私を呼ぶ、優しい声が耳元で聴こえた。
「あいしてる。」
そういって私の耳に伊作がキスをしたのを知っていたけれど、恥ずかしかったからそのまま寝てしまった。
(…あれ?伊作・・・・)
(なんだい?)
(っ///////ばかみたい!!)
(えぇっ!!)
((なんで胸元にキスマークがあるのよ//))
((なまえ気づいたのかな…かわいいなぁ…))
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なんでかおけま(だけ)が甘いっていう。