夢から覚めれば
ばさ、ばさ。
何処かで羽ばたく音がする。こんな目を開けても螺旋階段以外何も見えない、くらい世界で。
その音はどこからだろうと螺旋階段から顔を覗かせると黒い人影が背後にいることが分かった。いつもの夢のように、突き飛ばす奴だ。
また突き飛ばすんだろう、と意を決していると真上からピーヒョロロロロとトンビのような鳴き声と共に変声されたような悲鳴があがった。
「……カラス?」
振り返れば黒い人影を上空からつつき回すカラス。だが先程の鳴き声的にトンビだと思っていたが、その正体はカラスのようだ。だが、足は何故か三本ある。
カラスはまるで私を守るように黒い人影をつついていたが、黒い人影から放たれる黒い槍に驚いたかのようにピッと甲高い声を漏らしてその場から少し離れた。
そしてカラスはこちらにやってきて少し旋回するとついてこいと言わんばかりに螺旋階段を降りるように羽ばたく。
黒い人影は私を突き飛ばすように私を狙っており、螺旋階段の内側へ追いやろうと逃げ道を塞いでくるのでそれを蹴り上げ、怯んだ隙に降りていく。
カラスは早くと言わんばかりに少し鳴き、後ろを振り向けば黒い人影が追いかけてきていた。あれに捕まったら終わりだと二段飛ばしやら三段飛ばしをして階段を降りると終わりらしい階段の出口の光を見つけた。
カラスはそこを通るように促すが、最後の最後で黒い人影の触手に捕まり、バタンと倒れてしまう。
「逃がさない」
人影は触手で捕まった私の左足をこちら側へと引き摺り、出口から遠ざける。抵抗すれば数十メートルも持ち待ちあげられてまずい、落とされるとジタバタするも宙をかくだけ。
カラスが助けようとするも、黒い人影が無数の刃物を出して追いかけてくるので手が出せない。
このままいつものように死ぬんだろうか、そう諦めて目を閉じる時だった。
「諦めちゃダメ!」
パアッと目を閉じても眩しいくらいの光が現れ、足の違和感も一瞬で消える。
途端に浮遊感を感じて落ちていくも、優しい風に支えられ、ゆっくりと下ろされていく。
「ううう、そのひかり、は…!」
黒い人影が呻き、光から逃げつつも私へ手を伸ばすが、カラスの一声で出口へとむかう。
風に押されながら出れば出口は閉まり、急激に意識が飛かける。
「この夢はもう二度と見ないでしょう。安心して寝てね」
カラスは膝をつく私に寄ってそう鳴き、風がふわりとそよぐ。
「おやすみ」
カラスとは違う男の声に、私は意識を飛ばしてしまった。
「……起きたか。おはよう」
「おはようございます、主君」
「…なんで近いの」
「少し魘されていたので」
「だが、もう大丈夫のようだな。目に黒い影がもう見えない」
「……?意味分かんない」
「夢に憑かれてたと言えば分かりますかね?」
「その憑いていた奴が消えた。俺たちは夢はきれないから、困っていたんだ」
「もう大丈夫のようですし、主君、ご飯を食べましょう!お母上が僕たちの分も用意してくれているんです!」
「さっさと着替えろ。汗だくだぞ」
「はいはい」
「あーっ!あーっ!しゅ、主君!あれほど僕たちの前で脱がないでくださいって言ったではありませんか!」
「え?あっだぁ!!」
「……少しは性別を気にしてくれ」
夢から覚めれば
そこには大切な人がいる
(こわかったぁ…)
(主様、大丈夫ですか?)
(大丈夫に見えるかな?)
(見えないですね。では僕が幸運を与えます!)
(あの影が夢から逃げても、現実で会うだろうなぁ。闇ちゃん、どう動くかな?)