烏の群れの中で

□一か月前
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一か月前の県民体育大会
相手チームの圧倒的なブロックに攻撃を塞がれ負けた。

打ったスパイクの大半は止められ、
たぶんだけど、旭さんは最後トスを呼ぶことをしなかった。

それもあるんだろう。
学校に戻っても空気が重かった。

「俺のせいで負けたんだろうが!!お前がいくら拾ったってスパイクが決まんなきゃ意味ないんだよ!!」

ミーティングも終わり、後片づけしていた時だった。
旭さんの声、だと思うものは体育館の入口まで確りと聞こえた。

思わず私は足を止めた。
今、入っていはいけない。
そう思った。

…だけど、心配で
聞き耳を立ててしまった。

「打ってみなきゃわかんねえだろうが!!次は決まるかもしれないじゃねーか!!」

ノヤの声がする…。
そうか。
ノヤと旭さんか。

「俺が繋いだボールをアンタが勝手に諦めんなよ!!」

旭さんがトスを呼ばなかったのは
たぶん、怖くなかったからだ。

でも、ノヤは諦めてほしくなかったってことなんだね…。
ノヤの気持ちもわかるけど、
ブロックに捕まり続ける旭さんの気持ちもわかる…。


〈どんなボールだろうとななしは打てるでしょ?〉
〈スーパーエースだもんねー、ちゃんと決めてよね〉

『…っ、』

今、思い出すことじゃないのに。

「…ななし」
『…あ、さひさん』
「今の、話し」
『少し、だけ聞こえました』

たぶん、逃げて来たんだと思う旭さんに会ってしまった。

「…そっか」
『……あの、私が言うのもあれですけど』
「…」
『ウチのチームは、旭さんのせいだって思ってる人は誰もいないと、思います』
「…ななしに、俺の何がわかる」

少し苛立ちがあるような目つきで私を見る。

「ななしくらいの選手なら、あのブロックに上手いく対応できるだろ。そんな奴に俺の気持ちがわかるはずないだろ」
『旭さん…』

やめて。

「天才のななしには凡人の気持ちなんかわかるはずない」
『っ…』

わかってる。
…これは旭さんのホントの言葉じゃない。
けど、けど…

『…でも、凡人だっていう旭さんにはちゃんと仲間がいます。…天才の私には仲間なんていませんでした』
「…」
『どんなに努力したって天才の一言で片づけられる気持ち、旭さんにわかりますか』

一番、言われなくないことを
烏野で言われるとは思わなかった。
涙が止まらない。

「旭っ!…ななし?」
『…失礼します』

旭さんを心配してかスガさんがやってきた。
泣いているのが嫌で逃げてしまった。

今の旭さんに言ってはいけなかったんだろう。
バカだ、私。

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