小説

□birthday
1ページ/1ページ


誕生日、らしい。

らしい、というのは沖田くんに聞いたという神楽から聞いたからだ。

だが、ちょっと勇気を出して電話で話を振ってみたのに、ああ、連休中だからずっと見回りだな、と全く気にもしていないような返事で。

くそ、そっちがそんなだと何かするにしてもしづらいだろうが。

まあ、こんないい年をしたオッサン同士、お誕生日おめでとうも何もねえだろうとは思うのだが。

それでもやはり、気にはなる。

しかし何かやるとして、マヨか煙草くらいしか思い付かない。
特に何か不自由しているようにも見えない。

不自由というなら自分の方がよっぽどだ。

渡せなかったら捨てるか誰かにやればいいか。
コンビニで、いつも奴が吸っている銘柄を、ちらと財布を見て二つ買った。

連休真っ只中の当日。
問題はどう渡すかだよなと洗濯物を干しながら考える。

わざわざ屯所に行くのもおかしいし。

かといって、見回りだという奴と偶然会えるとも思えない。

だから、路地裏からふいと土方が現れた時は、驚いて洗濯物を落としそうになった。

「…おい、土方、」

「…おお。すげえ、大量だな」

「ああ、しばらく雨で溜まってたからな。…いや、つーか、」

「ん?」

「あー…、ちょっと待ってろ、」

一度部屋に入って、煙草をひっ掴みベランダに戻る。

何気なく、何気なく。

「…パチ屋で貰ったから、やる」

そう言って二箱をぽいぽいと、土方に放った。

少し目を開いた土方は、僅かに笑って、ありがとな、後で電話すると言って歩いていった。

この陽気ではやや暑そうな、黒い隊服の後ろ姿を見送る。

後でっていつだ。
奴の言葉を反芻して、思ってしまった。


end.

(言えなかったのは俺も、なんだよ。けれど、お前が表してくれたから、)


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ