小説
□birthday
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誕生日、らしい。
らしい、というのは沖田くんに聞いたという神楽から聞いたからだ。
だが、ちょっと勇気を出して電話で話を振ってみたのに、ああ、連休中だからずっと見回りだな、と全く気にもしていないような返事で。
くそ、そっちがそんなだと何かするにしてもしづらいだろうが。
まあ、こんないい年をしたオッサン同士、お誕生日おめでとうも何もねえだろうとは思うのだが。
それでもやはり、気にはなる。
しかし何かやるとして、マヨか煙草くらいしか思い付かない。
特に何か不自由しているようにも見えない。
不自由というなら自分の方がよっぽどだ。
渡せなかったら捨てるか誰かにやればいいか。
コンビニで、いつも奴が吸っている銘柄を、ちらと財布を見て二つ買った。
連休真っ只中の当日。
問題はどう渡すかだよなと洗濯物を干しながら考える。
わざわざ屯所に行くのもおかしいし。
かといって、見回りだという奴と偶然会えるとも思えない。
だから、路地裏からふいと土方が現れた時は、驚いて洗濯物を落としそうになった。
「…おい、土方、」
「…おお。すげえ、大量だな」
「ああ、しばらく雨で溜まってたからな。…いや、つーか、」
「ん?」
「あー…、ちょっと待ってろ、」
一度部屋に入って、煙草をひっ掴みベランダに戻る。
何気なく、何気なく。
「…パチ屋で貰ったから、やる」
そう言って二箱をぽいぽいと、土方に放った。
少し目を開いた土方は、僅かに笑って、ありがとな、後で電話すると言って歩いていった。
この陽気ではやや暑そうな、黒い隊服の後ろ姿を見送る。
後でっていつだ。
奴の言葉を反芻して、思ってしまった。
end.
(言えなかったのは俺も、なんだよ。けれど、お前が表してくれたから、)
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