01/22の日記

17:15
冬のキス 5
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5.

放課後、数学科準備室の戸を開けたおれは、目に入った光景に少し驚いた。

いつもびしっとしている土方先生が、額に片手をついてうたた寝をしていたからだ。

うおお、と思って、そっと近寄って観察する。

寝てる時でも眉間にシワが寄ってる、とか、結構まつげが長い、とか。

…そういえば、付き合って結構経つのに、寝顔ってちゃんと見たことなかったな。

もう、何度か先生のアパートに泊まって、まあ、そういう事もしてはいるけれど。

朝、おれが起きる前に先生はいつも起きていて、朝ごはんとか用意してくれている。
それか、ベッドで煙草を吹かしながら、おれが起きるのを待ってるか。
起きると頭をくしゃっとしてきて、外で飯食うか、つってそのままドライブとかになる。

…あー、なんか恥ずかしくなってきた。
もうちょい早く起きれるように、今度からアラームかけとこう。

割と長い時間、見ているけど先生は起きない。
肘の下には昨日やった、冬休み明けの確認テストがある。おれは料理の専門が決まってるけど、ほとんどのやつはもうじきセンターだ。
答案用紙は、マルとバツだけじゃなく、所々にこれはどこの公式を使う、とか、頑張れ、って赤ペンで書いてある。

真面目だなあ、と思う。
で、顔も羨ましいくらい良くて、女子にもモテモテで。
好きだ、って言ってきたのは先生からだったけど、今でも何でだろうと思う。

可愛い、とかよく分からない事を言うけど、いつでも余裕綽々だし。

…おれのほうは、もうめちゃくちゃはまってしまっているというのに。

何かだんだん悔しいような気持ちになってきた。
しかも、補習、待ってるから終わったら来いって言ったのも先生なのに。

えい、と額についていた右手を、外側に払ってやった。
「ーっ?」
額をごつんとぶつけて、先生は起きた。

「痛って、…坂田?」
そのまま、半分寝ぼけたような顔でおれを見る先生の、ちょっと赤くなった額にキスをした。

「へへへー、不意討ち!」

先生が驚けばいい、と軽い気持ちでやったのだが、一瞬、目を見開いた先生が、すごい勢いでイスを立ったのでびびる。

「うわっ?せんせいゴメンっ…?」
全部言い切る前に、先生がぎゅっと抱き締めてきた。

「…たくお前は…。可愛い事すんな、」
「う、え?…あ、怒ってない?」
「…まあ、ちょっと痛かったけどな。怒ってねえよ。…待たせたか?」

先生がおれを離して訊いてくる。その、優しい感じに弱いおれは、怒った振りで言い返して、何とか平静を保とうとする。

「そうそう、待った!補習終わって急いで来たのにさあ、先生寝てるし!」
「悪かった。…んで、待ちきれなくて、不意討ち、か?」

近くで笑って言われると、もう平静を保つのは無理だった。

「…だって、なんか、先生いっつもよゆー、って感じだし…、驚かしてみたかったっていうか…」
「…余裕、ね…」

先生はまたおれをぎゅーっとしてきて、後頭部をくしゃりとして、言った。

「…まあ、そう思ってくれんのは嬉しいけどよ。…教師のくせに、しかも男子に、好きだって言っちまった時点で、余裕なんざねえんだよ、」
「…まじで…?」
「ああ、まじだ、」

更に強く抱き締められて、余裕なんかないと言う先生よりも、結局余裕がなくなってしまいそうだ。

でも悔しいから、おれも、と言って先生を抱き締め返すのは、もう少し後にする。


『不意討ち!』 逆3Z

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