Plastic Tree

□キスミー
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胸がすごく痛いのは いつからかな
息が詰まるなんて

し  ら  な  い  よ


プラトニックな感情に寒気がしますあぁなんて馬鹿な精神バランス?今更ガキみたいにはしゃぐつもりは無いんだ。


「…また君居るの?」

「はい。仕事なんで、すいません。」

「はぁー…」


苛々させてんな、何へらへら平気な顔してんの、そんな、顔は、可愛いく、な、い…。



例えば髪を切っただとか、最近どんな本買ったかだとか、どんなファッションが好きだとか、挙げ句シャンプー変えたのか、とか、理解出来てる僕がいて、それがなんとなく心地悪い。


だって君は僕にとってなんでもないのに、そんなことを脳が考えるなんておかしいじゃないか。

おかしいじゃないか。



何度考えたの何回悩んだのいくつ溜め息が漏れたのその吐息の酸素濃度っていくつ?どうでもいいんだそんなの僕は幾度目かの憂鬱を飲み込んで下手くそな消化をしてまた同じ味のソレを飲み込み持て余してる。


孤独に酷く近い味のするそれは、きっと僕が何かを欲しがっているせ、い?



あああああああああああああああああああああああああああ


もう虫の息、なのに、君を見たら毒を吐いてしまう。
いっそ消えたい?


(俺が、消えた、ら、)

君は泣くの?
いや、泣かないでしょ。
でも、せめて俯いてくれないかなぁ。なんて、気持ち悪い思考だ。


「ねぇ、なんで髪切ったの?」

「え?あぁ…特に理由はないです。」

嘘付け。僕がこないだ独り言みたく「髪切ればいいのに」なんて言ったからでしょう?

あんなの虚言だよ。髪切らなくていいよ勿体ない。

アクセサリーなんて全くしない君が少し前からいきなりネックレスっておかしいよ。あれも僕のせいなわけ?

いつもあのメーカーの水じゃなかったくせしてなに急に変えてんの。


「似合ってないよね。」

「そうですか。」

「余計不細工だよ」

「…肝に銘じておきます」

「銘じたって君の顔は変わんないよ?」

「そうでした、ね、」

「……ほんと、存在が不愉快。」


瞳が揺れて君が黙る。
あ、あ、あ、
泣きそう?

自分から僕に近寄る君が悪い。


髪型変えたりネックレスしてみたり飲み物変えたり、その他色々、ぜんぶ僕のせいじゃないか。

君はどれだけ僕に染まりたいの。そんなことするから僕はつい構うんでしょう?

キツい言葉を言われるのが辛いのなら離れればいいのに学習しないのは君の悪い癖だ。


「…有村さん」

「……なぁに?」

恐る恐る口を開く君。いい予感なんてするわけがない。
底のない暗闇のような真っ黒な瞳が躊躇いがちに僕を捉えたら、ゆっくりと君は続きを口にした。


「嫌い、なのは分かりましたから、」

「分かってない!!」

「……あ、りむら、さん?」


つい大声なんか出してしまった。

びっくりして唖然とした君を見つめる。


ほら君は何も分かってない、なにも。


「"有村"とか呼ばないでよ。俺に近寄るからいけないんだよ、気付かないの?」

「…っ、……近寄るな、なんて、わたし、近寄った覚えは、」

「なんで泣きそうになってんの?すごく気に入らないよ、苛々す、る」


僕ら同じ部屋にいて同じ酸素を共有してるのにどうしてこんなにも違う物体なんだろう?
僕がここにいて君はそこにいて、近いのに遠いや。少し踏み出せば触れそうなのに、君にはとてもじゃないけれど手が届かない気分がする。

ひどくもどかしくて煩わしい。



「似合ってないとか、可愛いくないとか、不細工とか、気に入らないとか、苛々するとか不愉快だとかは言った、けど、」


君に一歩一歩、ゆっくり寄っていく。

ねぇ、怯えない、で



「嫌いだなんて、言わなかったでしょ?」



理解してよ。

消えてとか帰ってとか、そういう類の言葉も言ったことないの、気付いてる?


「……けど、そんな言葉、嫌いも同然で、す」

溜まった涙はいつ君の頬を零れるかなぁ。それは僕が泣かせたということになるのかなぁ。


あぁ、ほら、また君がグサグサ刺さって心臓がズキズキ痛むの。呼吸が上手くできないなんて末期だ。



「…ほんとのことなんて、滅多に口にしないよ」


でも、だけれど、僕が言い放ったその言葉は信じていいよ。
僕は滅多にほんとのことなんて言わない。けど君だって、隠してることがあるでしょう?
僕と同じだって、

気付いて



「………そ、んな、」

「ねぇ、なんでこんなに苦しくならなきゃいけないの?なんで理解してくれないの?なんで気付かないの?」

立ってる君、目の前の僕。気がふれてく?

「どうしてこんな近くに居るのに遠いの?」

「あ、りむ、ら、さ」

意味が分からなくて混乱してる君の口が、また"アリムラ"って呼んだ。
やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめ、て。


反射的に、カッと頭に血が上ったみたく、僕の左手はいつの間にか君の後頭部を押さえ付けていて、右手でつい君のその口を塞いだ。


「君は僕にとって何でもないのに脳が考えるなんておかしいよ。息が詰まるなんてウンザリする、気持ち悪い。」

掌に君の息がかかって生暖かい。

…僕が君に触れてる?

背中からゾクゾクして体温が上がりそうだよ、意味分かんない。

「君が原因だよ。だからすごく、不愉快、」


きっと僕は酷い表情をしている。だって呼吸困難なんだ。
苦しい。


「ねぇ、理解してよ」

「………、」

「言動とか感情に、気付い、て」


嫌いならこんなに君に構わないでしょう?君を見てなかったら沢山の変化になんか気付けないでしょう?君に、こころを持っていかれてなかったら、こんなに

(苦しく、ない、のに。)



「……、今度"アリムラ"って言ったら、また塞ぐよ」

僕はゆっくりと君から手を離した。
自分を無理矢理落ち着かせるように呼吸する。

酸素の足らない僕。と君?

目の前の君は怯えたように僕を見つめてた。

どうしてどうしてどうして、その瞳に吸い込まれたいとさえ思うのに、声にしようとしたら舌が絡まるんだろう。


ガキみたいにはしゃぐつもりは無い、のに、まるで不毛な恋愛みたいだ


少しの沈黙の後、君の滲んだ目に溜まった涙が、やっと一つ零れた。

すーっと頬を伝って、君が瞬きをする。きっと哀しみとかで零れたんじゃなくて、反射的なものとして溜まった涙だ。君は簡単に泣けないタイプの人だから。


それを分かってるのに、
あぁ、ついに泣かせてしまった、なんて脳内が一斉に反応した。

涙を流した君は思ったよりずっと僕の心臓をぎゅっと掴んだ。


君、が、泣いてる?


「………っ、」

僕はつい居たたまれなくなって、一度離して無気力に垂らしていた両手を急いで再び持ち上げた。

君の首筋辺りから手を差し込み、顔のラインに沿って掌を添えた。

――逃げられないように

その時肌が触れる感覚がして、心臓が反応した。

焦ったように、乱暴にもう片方の手の指先で君の涙を拭う。

グイグイという効果音が似合うような触れ方。不器用極まりなくて、僕が惨めに思える。


(お願い、)
(泣かないで)

「怯えない、で、」



幼い子供の甘い声みたいな自分の声は、切なくなるほど感情が剥き出しだった。

でもきっと君の鼓膜を揺らしてその心臓にまで届いたでしょう?

だって君の反応が、
まるっきり僕と同じなんだもの。



空気が生暖かくなった感覚に陥る。
未だ混乱気味で困惑した君は、頭の中を必死に整理するように目を泳がせた。
まだ涙は溜まったまま。

あぁ、ねぇ、反らさないで。


気付いたら涙を拭った手で君の目を塞いでいた。

視界がゼロになる君は、拒否もせずにじっと固まる。

僕は虫の息の呼吸をフッと止めた。
目の前で、触れている君が、こんなにも近い。


心が脳に叫ぶ。
僕はゆっくり目を閉じた。















キス ミー。
憎まれ口が噛み付いた







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