幸せのまえに・・・
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「はい。終わりました」
ジャーファルの手を治療して、治療と言っても消毒をして絆創膏を貼っただけであるが、彼女は満足そうに笑った。
よく笑う子だなぁと正直に思う。心から笑っているような、そんな笑顔。
見ていて温かくなるソレにジャーファルも僅かに微笑んだ。
「あ、やばい。そろそろ時間だっ」
駅のホームにかかっている時計を見ながら言った彼女の言葉に、ジャーファルはハッとして同じく時計に目をやった。
時計が示す時刻は、自分がいつも乗る電車までまだまだ余裕がある。しかし彼女は違う様で、少し慌てながら鞄を肩にひっかけた。
「えっと、それじゃぁ此処で。…ジュースありがとうございました!」
ぺこり、とお辞儀をして電車へと駆けていく彼女に慌ただしいなぁと思いながら一応手を振っておく。
振り替えされたソレにジャーファルはいつの間にか笑っていた。
「さてと。そろそろ私も…………ん?」
立ち上がろうとした自分の目に飛び込んできたのは、地面に落ちている紺色に近い色をした手帳。きっと彼女のだろう。さっきまでこの場に居たのは彼女しかいない。
しかし、
「…………」
やってはいけない事だろうが、確かめるだけ。持ち主を確かめるだけだ。
何故か自分自身にそんな言い分を言い聞かせてジャーファルは手帳を拾い、はらりと捲った。
end