企画
□七瀬様
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「お前、ソレ好きだよな」
そう呟いて、カシムはつけたばかりの煙草を吹かしながら、自分の背中に寄りかかっているアリババを見た。
その際、寄りかかる位置が僅かにズレたのが気に入らないのか、少々ムッと口を尖らせながら、また新しく寄りかかる場所を探そうとするアリババに溜息をつく。
別に答えを求めている訳では無いけれど、先程からずっとこの調子なのだ。
そりゃ、まぁ、くっついていられるのは嬉しいのだが、楽しいかと聞かれたら答えは否。
もぞもぞと彼が動いているのだろう、背中がくすぐったかった。
「眠いのか?」
「ん?………んー…」
言葉になっていない、微妙に違うニュアンスの「ん」を続けながらアリババはカシムの背中にぴったりと張り付いており、動く気配は見られない。
こくんっと彼が頷いた感覚が背中を通して伝わる。
相変わらずだなぁと思いながら、少々辛いが、カシムはアリババが寄りかかり易いように背中を少しばかり前に倒した。
カシムの背中に寄りかかって眠るのは、アリババの癖と言っても過言ではない。
別に特別な何かがあるわけじゃ無くて、単に幼い頃にスラム街で暮らしていた時のそれが癖としてまだ残っているのだろう。
あの頃は皆で寄り添って、丸まって寝ていたから、背中などに誰かがピトッと張り付いていたのは日常茶飯事だった。
大抵カシムに張り付いていたのはアリババだったが。
(ガキかっつーの……)
そう言えば、小さい頃についた癖はそうそう簡単には抜けないとか何とか、ザイナブが苦笑いしながら言っていた気がする。
(その隣でしきりに何度も頷いていたハッサンには色々と突っ込みたかったが、一つ言うなら、何で頷いた後に気まずそうに目を逸らした)
ふとアリババの方に視線を戻せば、未だもぞもぞと動き続けている。
そろそろ本格的にくすぐったくて仕方ないのだが、勿論口には出さないので、アリババに伝わる訳が無い。
もうしばらく好きなままにさせてやりたいのはやまやまだが、この体勢もなかなか辛いものがあるのだ。
「おい、アリババ。くすぐってぇよ」
「んー…カシム、もうちょい前に倒れて…」
「人の話を聞けって、頼むから」
つい先程までもぞもぞと動いていたアリババの動きが止まった。
どうやら彼はようやく自分にとってピッタリの場所を見つけたらしい。
「……ぐふっ!」
しかし、その途端にグッと思いっきり頭を押し付けてくるものだから、背中が僅かに嫌な音をたてて悲鳴を上げる。
今以上前に倒せる程、決してカシムの体は柔らかくなかった。