magi 短編
□届かない
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夜、しかも夜中とあってか人影は一つもない。
廊下をアリババは寝間着のままぺたぺたと歩いていた。
(アラジンとモルジアナに心配かけちまってるし、早く何とかしねーとな…)
まぁ、何とか出来るならば既に何とかしているけれど。
そもそも、何時からこうなのかと聞かれたらアリババはその問いに答えることは出来ないだろう。
しかし、何時までもこうしている訳にはいかないことも解っていた。
(月が綺麗だな……)
見上げた空に、見えたのは満月。
「そう言えば、カシムは月が好きだったっけ」
太陽でも星でもなく、月が好きだと彼が言っていたのを思い出した。
太陽の様に眩しすぎることなく、星の様に淡すぎることもない。煌々と輝く月が好きなのだと、昔彼と彼の妹と一緒に見上げた空にかかる、
故郷に立ち込める霧にぼやけた月は、満月だった。
(会いたいな……)
その願いが叶わないことをアリババは知っているけど、どうしても願わずにはいられなかった。
謝りたかったのだ、彼を救えなかったことを。
伝えたかったのだ、彼に。
自分の気持ちを。
(あの月……カシムみてぇ)
上手く言葉に出来ないけれど、ただ何となくアリババはそう思った。
「届かねぇよ、カシム」
ーーーーーーお前には
伸ばした手は何も掴めなかった。