magi 短編
□明け方近くに
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夜、と言うよりは最早明け方に近いと言っても良い時間。
また徹夜だったと眉間を指で揉み解しながら軽く愚痴れば、周りに居た部下達も何処と無く憔悴しきった顔で部屋に戻っている。
そろそろ自分も一度部屋に戻ろうかと、まだ誰も起きていない静かな廊下を歩いていた時だった。
「………歌?」
風に乗って聞こえてくる微かな声。
よくよく耳を澄ませばソレは旋律を帯びていて、一体誰が、とジャーファルは声の聞こえる方へ足を進めた。
食客達が滞在する緑射塔の天辺。そこの窓辺に腰かける様にしてアリババは居た。
佇む自分に気付いていないのか、彼はその優しげな旋律を止めることをせずに外を見ている。
陽が昇るには早く、辺りはまだ暗い。
それなのに彼はまるで見えているように、ただ一点を、海の方向を見つめていて。
いつまでそうしていただろうか。
不意に止んだ彼の歌に意識が戻り、ジャーファルは今まで自分が彼の歌に浸っていたことにようやく気付いた。
彼の歌が無くなった後に残るのは夜の静寂だけ。
それがどうしても嫌で、ジャーファルは気配を消してアリババに近寄り、己の手で彼の目を覆った。
「わっ!え、何っ!?」
慌てて手を掴んでくる彼に少々申し訳なく思いながらも、ジャーファルは彼を窓辺から離し、その腕の中へと引き寄せる。
「えっ、…………ジャーファルさん!?」
驚いた顔をしている彼を見て、微笑んでしまうのはもう癖だろうか。
そんな事を思いながら、ジャーファルはアリババの手を急に引っ張りだした。
「あのっ、ジャーファルさん!!」
「はい、何ですか?」
「何ですかじゃなくて、何処に行くんですか!?」
「何処って………私の部屋ですが」
シレッと言われたその言葉にアリババは唖然とし、そしてそんな彼を余所にジャーファルは彼の手を握り続けた。