magi 短編
□ばかっぷる
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「もうジャーファルさんなんか知りません!!」
突然廊下に響いた声に、何事だとシンドバッドは執務室から顔をひょっこりと覗かせた。
きょろりと見回して見つけたのは部下のジャーファルと、その恋人のアリババである。何時も仲が良い二人の間には少しだけピリピリとした雰囲気。
喧嘩なんて珍しいとシンドバッドは執務室の扉に隠れながらソッと見守っていた。
「はぁ…。アリババくん、いったい君は何度言えば解るんですか?」
「……ジャーファルさんの分からず屋!」
「アリババくんに言われたくありません」
お互いにプイッとそっぽを向いて言い合う二人と、どんどん険悪になっていく空気に周囲の人はオロオロとするばかり。
流石にそろそろ不味いかと、意を決してシンドバッドは身を乗り出した。
「やぁ二人とも、いったいどうしたんだ?」
「シンには関係ありません」
バッサリきられてもめげないのはシンドバッドの長所の一つ。しかしそっぽを向いたままのジャーファルに、こりゃ駄目だと、彼に聞くのを瞬間的に諦めてアリババの方を向いた。
「アリババくん、何があったのかな?」
ニコリと微笑んだ瞬間、アリババの目に涙がじわりと滲む。
途端に突き刺さる約一名の政務官の視線に、いや絶対お前のせいだろ!と叫びたくなった。
「……アリババくん?」
「どうしたんだい?」と表情を変えず、優しく問いかければ彼は一層ボロボロと涙を流す。
「シン……………」
「まっ、待てジャーファル!誤解だ!!」
今にも眷属器を発動しそうな彼を必死になって止めた。
発動なんてされたら死ぬ、俺が。
絶対的な確信を持って彼を止めれば、チッと舌打ちをしてジャーファルは構えかけた腕をおろした。
「ジャーファル、今舌打ちが聞こえた気がしたんだが…」
「おや。シン、空耳でも聞こえたんですか?」
いつの間にか涙を流すアリババの元へと駆け寄り、ちゃっかり手を握りながら悪びれもなく言い放つ部下に一瞬、一瞬だけイラッと来た。
「ぅ……ぐすっ、…ジャーファルさん……」
「アリババくん、大丈夫ですか?」
「だって、ジャーファルさんがっ………」
「うん。ごめんね」
え、王様全然話しについて行けないんだけど!?
仲直り的な雰囲気に、口に出さない代わりに心の中でシンドバッドは思いっきり叫んでいた。