つい書いてしまった物

□許したくもない
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青い空を見ながら、存在って何なんだろうなと考える。この世界に掃いて捨てるほどあるそれの意味を考えて、止めた。まあ、ほら。

「ヒトなんてどうせ、すぐに死ぬ」

霊長類ヒト科ヒト目。偉そうにしていても、私なんかよりも何倍も早く死ぬじゃないか。ひとりぼっちの化け物は呆れ顔を続ける。


蛇の髪を持つ化け物は、ひとりふらふらと森の中を歩いていた。確かここは国境、隣国との戦争の最前線。しかしそれもどうでもいい、なんてったって私は化け物だ。呆れの中に自嘲が浮かぶ。るんたった、上機嫌に緑の中を進んでいると、がさりと草から音がして。振り向くとそこには一人の少年が立っていた。手には銃、なんだただの少年兵かと化け物は移動を再開する。待って、そう化け物を呼び止めた少年兵の頬は赤く上気していた。

「このまま生涯を暮らそうか」

年月が経ち、少年は化け物の手を握る。じんわりと染み渡る体温が、化け物の手を暖めていった。


町外れ、森の中。人目につかないその家で、化け物は始まった日々をただただ噛み締める。腕に感じる重さ、彼に似た白髪の赤ん坊を愛おしげに抱き締めた。かちゃりと開いたドアの音に顔を上げると、ただいま、と青年になった少年兵が家の中に足を踏み入れる。今日はお土産があるんだ。そう手渡された物に、化け物は首をかしげた。

何、これ?リボンだよ。リボン?そう。君の髪を纏めるための布だ。どうやるの?やってあげる。きっと似合うよ。

青年はくすりと微笑んで、化け物の後ろに腰を下ろす。いいよって言うまで動いちゃ駄目だよ、軽く注意すると期待した声で分かったと返ってきた。
少し経って、できたと青年が声を上げ部屋の奥に消える。ちょっと待っててね、今鏡持ってくるから!ばたばたと戻ってくる足音に、化け物は何もそんなに急がなくてもと青年をたしなめた。子供が泣いたらどうするんだ。ごめんね、でもやっぱり似合ってるよと青年は鏡越しに化け物を見る。鏡の中では、長い黒髪を束ねた化け物が苦く笑っていた。

「ほら、君の瞳とおんなじ綺麗な赤だ」

抱える腕の中で、赤ん坊が楽しそうに笑い声を上げる。シオンも喜んでると青年が笑った。赤ん坊のふわふわとした髪を撫でる指を見ながら、化け物はある1つのことに気が付いて身を震わせる。

私の姿は何も変わっていないのに、君だけがひとり老いていく。

それはいつか、空を見ながら呆れたことだった。始まった日々を噛み締めて、子供もできてしまった化け物には、もう、耐えられない。


蛇の力を集めてさ。無くなったって構わないんだ。毎日毎日少しずつ作り上げたセカイが完成する頃には、赤ん坊はもう可愛らしい童女へと成長していた。娘を膝の上に乗せて、化け物は嬉々として青年に語りかける。

終わらないセカイを作ったんだ。家族だけで行こう。

そうだね。そうしようか。青年は柔らかく微笑んだ。


セカイへと繋がる扉の前で、化け物は青々とした緑に腰を下ろす。青年と娘は、あと一時間ほどでここに現れるはずだった。清々しい風がリボンを揺らす初夏の草原。約束の一時間はとっくに過ぎて、一日、二日、一週間。いつまでも、現れない。

ああ、やっぱり来なかった。流れる雲を数えて、どこか寂しそうな空を見上げる。何処までも続く青を見て、ふとあることを思い出した。

そういや、日時も場所も教えてない。

そりゃ来ない訳だよ。というか来たくても来れねえよ。ゆっくりと腰を上げて、化け物は家へと全力で駆け出した。ということは私一週間ぐらい家開けてるじゃんか!ごめんねシオンンンンンンン!響き渡った絶叫は、開いた扉に吸い込まれて消えていく。



「……で、今までどこにいたの?」

「と、扉の前に……」

「扉?俺もシオンも、そんなこと聞いてないけど?何しに行ってたの?」

「……終わらないセカイが、できた、から」

「うん、それは前に嬉しそうに言ってたから覚えてるよ。でも何で急にそこに行こうと思ったのかな?」

「……家族で、行こうと思って」

「ふぅん。じゃあ何でその家族に場所も何も言わずにいたのかな?」

「……ごめんなさい!」

「ごめんなさいじゃない!君がいない間シオンずっと泣きっぱなしだったんだからね!?」

「うわああああごめんねシオンンンンンン」

「ままどこかいっちゃやだああああ」

「本当にごめんねシオンママどこにもいかないから許してえええええええ」






終わり。
ごめんなさい。
一部の表記が分かりにくいとの声があったので説明します。セカイへと繋がる扉は森の更に奥ぐらいのところにあります。家の扉ではありません。しかしそれはあくまで私の自己解釈での話なのであしからず。
 

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