その他×ルフィ

□その手に触れていたいのです*
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ブン、と木切れが空を切る。







一回、また一回と空気を纏って音を鳴らす。




が、









カァンッ―――――!!






「いってぇええええ!!!!」




一発軽快な音が響き、同時に島に悲痛な声が木霊した。




「い、いてぇ!覇気使うなよ!!」
「痛くないと避ける気がしないだろう」



振るった木切れを肩に乗せ、呆れた様子でレイリーは見下ろす。
其の視線の先には目に涙を浮かべて頭を押さえる彼の弟子。



「もう大分避けられるようになったじゃないか」
「うー、でも痛ェ」
「ほらルフィ君、もう一回だ。目隠ししなさい」
「おう!」




レイリーの言葉に即座にルフィは従う。
たったそれだけの瞬間に、思わずレイリーは頬を綻ばせる。









このルスカイナで修業を始めてからもう一年経った。





けれどもあの時から―――ルフィは一度も弱音を吐かない。




修業は決して甘くない。
其れ相当な物をレイリーはルフィに与えている。








仲間の為。






其の為だから、絶対にめげない。
もう何も失わないために。





それは――――――重々分かっている。








「よし!いいぞ、レイリー!」



掛かった声に目を向けると鉢巻を目で覆ったルフィが居た。
レイリーも続きを始めようと木切れを握ったが、その途中である事に気付いた。
反応しないレイリーに、ルフィも首を傾げた。


「レイリー?」
「・・・・・ルフィ君、包帯がずれてるぞ」
「へ?」


目隠しを外してルフィは自分の体を見下ろした。



ルフィの体には1年前から未だ、その胸に包帯が巻かれている。
午前中から巻いていたので修行中にずれてしまったのだろう。
更に所々土などで大分汚れてきている。

いそいそと布を引っ張ってズレを直そうとするルフィに、レイリーは小さく笑みを零した。



「巻き直さねばな」
「えー、いいよ。もうだいぶ治ってるしこのままでも・・・・・・」
「結構汚れているから不潔だろう。それに何で君に巻かせているか、もう忘れたのか?」
「うっ・・・・・」
「君が傷を掻くからだ、無意識にな」


顔を顰めるルフィの肩を掴み、招く仕草を見せた。



「おいで、直してあげよう」
「・・・・・うん、分かった」






―――――






ベストを肩から下ろし、包帯の結び目を解く。
薄汚れた包帯がするすると体から滑り落ちていく。





其の下から現れる醜い傷跡。


胸に広がる大きな火傷痕と
其の上に刻まれた小さな無数の引っ掻き傷。
時折蚯蚓腫れの様な深い傷が胸を赤く腫らしている。




「・・・・また増えたんじゃないか?」
「・・・・・・ごめん」




項垂れるルフィにレイリーは小さく溜息を吐いた。
この悪い癖は未だ未だ直らない様だ。
傷の入った胸を軽く撫でてやると、少年は擽ったそうに身を少し捩らせて笑った。
18歳とは思えない其の幼く可愛らしい笑顔にレイリーも顔を綻ばせる。




この少年と過ごし始めてから笑顔が増えた―――――そんな気がした。












新しい包帯を取り出してルフィの体に巻き付ける。
真新しい白い布が傷を覆っていく。





「・・・・なあ」



大分巻き終わった所でルフィが小さく声を掛けた。


「なんだね?」


其の声に一瞬手を止めるが、再び作業を始める。
ルフィは自分を巻いていく包帯を見下ろしながら、ぽつりぽつりと言葉を零していく。


「レイリーさ・・・途中で帰るんだろ?」
「ああ・・・まあ、そうだな」
「いつなんだ?それ」


彼の言葉にレイリーは少し手を止めた。




確かにこの島を離れる事は決めていた。
いつまでも付きっ切りで修行させる訳にもいかない。
それにレイリーにもやるべき事がある。



だが、まだ時期までは決めていなかった。




「半年後・・・かな」

多分其れ位になると思う。
答えを聞いて、ルフィは顔を顰めた。


「は、半年?」
「そうだが・・・何か問題があるか?」

ルフィは顔を顰めた侭、俯いてしまった。
手の中の包帯がもう少なくなってくる。



「もう少し・・・長く居れねェのか?」



巻き終えて、左肩の隅で結ぼうとするとポツリとルフィが零した。
思わずレイリーも驚き、目の前の少年を見つめる。


「如何したんだね?一体」
「いや・・・その・・・べ、別に・・・」



問い質すと、ルフィは口籠らせて顔を反らせた。
ああ、全く。
本当に彼は嘘が下手だ。
そんな単純な所もこの少年の愛しさの一つなのだが。


「・・・・もうちょっと・・短いと思ってた」
「?」
「その・・・一人で居る時間が」
「何だ、寂しいのか?」
「ち、違ェ・・・けど・・・・」


口籠る其の様子は辿々しくいつもの天真爛漫な態度は見られない。
結び目を作り終え、空いた手でルフィの黒髪を優しく撫でる。
するとルフィは僅かに頬を緩ませ、笑った。


「・・・!!しししっ。おれレイリーに撫でられるの好きだ」
「!!」


本当にこの少年は。
思わず顔が綻んでしまう。


ルフィはレイリーの手を掴み、其の侭自らの頬に持っていき擦り寄せる。


「やっぱり・・・少し寂しいぞ」
「ん?そうか」
「半年も一人なんだろ?もうちょっと、レイリーと一緒に居てェ」


瞳を閉じて静かに頬を手に擦り寄せる様は可愛らしいというよりも綺麗だった。
其の姿に胸に燻られる様な感覚が広がる。




「ルフィ君・・・・・」
「・・・ん?」


レイリーはゆっくりと口を開いた。



「せっかく巻いたが・・・・包帯、解いていいかね?」
「!!///」


レイリーの言葉にルフィは驚き、顔を朱に染めた。
そして赤い顔の侭、小さく頷いた。
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