HxH Short
□猫と猫
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「にゃあ」
俺の隣の猫が小さく鳴いた。
頭を撫でると、ふわっと良い香りが漂う。
「何で猫の真似なんかしてんだよ。」
「…ふふっ」
幸せそうに笑う名無しさんの顔は、俺の表情を緩めた。
何なんだ、こいつ。
「猫ってねー、素直なんだよ」
「はあ?」
「まるでキルアみたい。」
「意味分かんねーの」
すると名無しさんは俺の頭を撫でた。
優しくて手馴れた手つき。
このままずっと撫でていてもらいたい……って、馬鹿か。
何か甘えん坊のガキみたいだ。
「こーやって、優しくすると寄ってくる。」
「う゛っ……」
完璧、俺のことだろそれ。
「……でもね、刃を向けると牙を向くの。」
………それも俺のこと?
名無しさんはたまによく分からなくなる。
「だから、たっぷり甘やかすんだよ。」
「…甘やかされてんのか。俺。」
「あはははっ!Yes!」
「はーあ……」
言われてみれば確かに、俺は名無しさんから甘やかされてばかり。
辛い事があれば笑顔で慰められて、嬉しい事があれば一緒に喜んでくれた。
俺は名無しさんに何もしていない。
ただ、隣にいるだけ。
どんな時だって、名無しさんが犠牲になってくれた。
彼女の精神だってズタボロな筈なのに。
「名無しさん。」
「なーに?」
「もっと、俺に甘えて。」
「ど、どしたの?」
俺ばっかり猫になるなんて嫌だから。
「名無しさんも、猫になればいい。」
俺は名無しさんを後ろからぎゅっと抱きしめた。
彼女は驚いたように固まってしまった。
「きるあ、あったかいねー」
「……うん」
名無しさんの身体は、細くて、冷たかった。
何で今までこんな彼女に守ってもらっていたんだろう。
こんな愛情表現しかできなくて、ごめん。
( だって、俺も猫だから。 )