HxH Short

□誘拐犯
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肌を掠める少し冷たい風。
ちらほら見える星達を際立たせる夜空。
綺麗に装飾された様々な店舗。

そして、そこをたった一人で歩く私というどうでもいい人間。

勘違いしないでほしい。一人なのは今だけ。

私はこれから友達との待ち合わせがある。
今週開催されている桜祭り。

5人くらい…だったかな。


「あ?喧嘩売ってんのかてめえ!」

「違うって。邪魔だっただけだし。」

「生意気いってんじゃねえよ!」


私の進行方向には小さな蟠りができていた。
面倒だから避けて別の道から通ろう。

少しでも危険を回避するべく薄暗い路地へと曲がった。


「きゃっ」


足元がよく見えず、両足が絡まる。
ばたん、と漫画にでも出てくるような効果音が似合う転び方をした。

怪我をしたところを触ると、血が出ているのがわかった。

ひりひりする。絆創膏は持っていない。


「……あの、大丈夫?」

「わっ!」


声がした背中を振り返ると、金髪の男の人。
下から見上げているせいなのか、随分高いところに顔がある。

はい、と差し出された手に捕まってようやく立ち上がった。


「ありがとうございます、ほんとに……」

「ううん、気にしないで。絆創膏は?」

「持ってないです。でも大丈夫ですから!」

「じゃああげるよ。痛々しいし。」

「ほんとにすみません…」


ポケットから出す仕草をただ見つめていた。

すると、私は気づいてしまった。
この人が何をしている人なのかを。


「幻影旅団……!」

「…やっぱ分かる?」

「ご、ごめんなさい!!ほんとすみませんでしたあああっ!」

「あっ、待って、」


私は持っている限りの力を出して全速力で走った。
もう嫌だ、殺されたくない。
私の人生をもっと楽しみたい。

そんな私に神様は冷たいようで。

またもや私の足は大きな木製の荷物にぶつかる。
身体のバランスががくっと崩れ、今度は左肩から思いっきり叩きつけられた。

激しい痛みが肩から全身に走る。


「ほら、また転んじゃうでしょ。」

「ひぃ…っ!ごめんなさい、ごめんなさい!!」

「何もしないからさー、」


再び逃げようとして起き上がった時に手首をがしっと掴まれた。

それと同時に、夜風以上に冷たい汗が背中をつーっと流れる。
私、この人に殺される。


「や、やめて……」

「騒ぐと警官が駆けつけるんだよねー」

「ご、ごめん、な、さいっ」

「……ほら、来ちゃった。」


わーわーと騒がしく警官達の足音と声が聞こえる。
もしかして、さっきの不良も彼だったの?

怖い、怖いよ。だから殺さないで。
早く、来て。


「さ、逃げよっか。」

「嫌っ、逃、がして下さ、い!」

「だって、絆創膏まだ貼ってないもん。」

「は、はあっ……?」


彼は私を軽々と持ち上げた。
お姫様抱っこというのはこれが初めてだけれど、こんなのやだ。

風を切るようにどんどんと景色が動いていく。
警官の声も遠ざかっていく。
意識も段々と薄れていく。


「肩もだったっけ?あれ、ガラス刺さってるよ。連れてきて良かったー」

「た、助けてえっ!誰か…っ」

「…何かキミ可愛いね。」


少女漫画ならときめく場面なのに、心臓がパニック状態でままならない。

足の震えも止まる気配は無い。


「あ、皆に何て説明しよ…」


それなら返して下さい。
それに、貴方達はただの強盗でしょ?
誘拐なんてした事無いじゃん。

誘拐されるなんて、私は神様に見放されたらしい。








( 誘 拐 犯 )




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