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□希望をくれたあなたに幸せを
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なんで俺たちはずっと一緒にはいられないんだろう――――――




豊臣軍の軍師、半兵衛は病の療養のため床にふせていた。

「官兵衛…殿…」

そう小さく呟くと、普段なら返ってくる
言葉もなく空気となるのだが、
今回は違った。

「なんだ、嫌な夢でも見たか」

冷たく、淡々とした…しかしどこか安心
させるような声音が半兵衛の耳に響く。
そこには豊臣軍の軍師仲間である官兵衛が立っていた。

「あれ、官兵衛殿どうしたの?
いつもは夜しか来てくれないのに
めずらしいね」

「秀吉様がたまには朝から卿のところへ行って
話し相手になってやれと言われたのだ」

クスッと笑いながら、朝から
官兵衛殿に会えて嬉しいなと言う
半兵衛にたいして官兵衛もそうだな
と、短く答える。

「ねえ、官兵衛殿。
たまには外に出たいんだけど…
付き合ってくれない?」

「半兵衛…今はまだ寝ていた方がいい」

半兵衛は上目遣いに尋ねるが、
まだ体調が優れないのだから
やめておけと官兵衛は言う。

「えー、こんな暗くてじめじめした
部屋に閉じこもってたらそれこそ
治るものも治らないよー!」

無理はしないからお願い、と言う半兵衛に
官兵衛は少し庭にでるだけならと
了承した。

「卿と共に庭を散策するのも久しぶりだな」

「そうだね…俺はいつも寝てなきゃ
いけないし、官兵衛殿は仕事をしなきゃ
ならないであまりこうやって二人の時間
とれなかったもんね」

たまにはこういうのもいいかもしれないと
思いながら官兵衛は半兵衛の顔を見る。

「半兵衛…少し痩せたか」

「え、なんで?
ちゃんと食はとってるよ?」

「そうか、ならいいが…。
…今度、私の料理を卿に食べさせよう」

思わぬ言葉にはしゃぐ半兵衛。
そして、満面の笑顔で官兵衛を見つめた。
その笑顔はいつもより綺麗で、どこか儚い
そんな印象を官兵衛にあたえたのだ。

―――その日の夜、半兵衛の容体が急変した。

一応、話せるようにはなったが身体は
もう動かせず、医師によれば
今日が山だろうということだ。

「半兵衛よ…入るぞ」

朝はあんなに元気で紅潮してたはずの
頬なのに、今の半兵衛の顔色はすごく青ざめていた。

「辛いか…怖いか…私が傍にいる、大丈夫だ」

「辛くないし怖くないって言ったら
嘘になるけど一人のときより楽になったよ」

頼もしいねと力なく笑う半兵衛に官兵衛は朝無理をさせてしまってすまないと謝る。

「そんな謝らないでよ
官兵衛殿も俺も…誰もこんなことに
なるなんて思ってなかったんだから」

「半兵衛…」

「でも、官兵衛殿の料理を食べれずに
死ぬなんて………悔しいな…」

俺、もうすぐここからいなくなるんだもんね
官兵衛殿の隣にいれなくなるんだもんね
そう言えば今まで抑えてた涙が次々と溢れる。

「大丈夫だ、半兵衛…私の隣はずっと
卿だけだからな…料理だって毎日
一緒にとろう。」

私と卿は心で繋がっているだろうと言い、
まだ涙が止まらない半兵衛を抱き寄せた。

「ぜったいだよ…?
俺以外の人を選んじゃだめだからね?」

「わかっている。
私にはお前でなくてはいけないからな」

ならよかったと微笑む半兵衛に官兵衛も
つられて微笑む。

「官兵衛殿の笑顔も見れたし、人生の
最後としては最高だね」

「私も私の生が尽きるときは
すぐに逝く。」

半兵衛はその時は迎えにいくよと言う。
だから自分がいなくなったからって
後を追うようなことはしないでくれとも。

「心配するな、私はそんなことはしない」

だよねと笑いながら半兵衛は続ける。

「ねえ、官兵衛殿?
眠くなってきちゃったんだけど…
手、繋いでくれる?」

「わかった。
ゆっくり休め半兵衛…もうお前の
眠りを邪魔するやつはいない」

そして、半兵衛は静かに目を閉じた。
愛しくて優しい人の顔を思い浮かべながら―――


(ずっと一緒にいられないのは身体的なだけで
心はずっと離れないってことを知ったから、
もう大丈夫だよ。ありがとう。)

意識が闇に落ちていくのが不思議と怖くなかった。
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