イリュージョン〜幻戦争〜
□プロローグ
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俺はそれから、作家になった。
あの瞬間まで文学なんか からっきし だったのに。
そう思うと【人生何が起こるか分からない】というのも、納得だ。
「守藤さん。では、新作についてのインタビューを始めさせていただきます」
「はい。」
だらだらとありふれた質問を投げかけられ、ありふれた返答を返していく。
デジャブを感じるほどのやり取りの羅列がまた、雑誌のすきまを埋めるのだろう。
始まって間もなくして、手は無意識に机の下で遊び始める。
人差し指と小指を立てて、親指と中指と人差し指をくっつけて、ワン。
犬が30回位吠えた頃、コーヒーを飲む手も躊躇いを失ってきた時。
「デビュー作の《幻戦争》は、かなり衝撃的でしたが」
意識が遊びから仕事へ戻ってきた。
「あぁ、あれはね」
『実体験、なんだよ』
なんて言ったら、何人信じるだろうか。
あれだよ。今時流行りの【ノンフィクション】だよ。
俺が考えた話じゃない。
俺が創った世界じゃない。
活字に浮かぶ、そんなあやふやなモンなんかじゃないんだ。
「俺が見たもの を元にして書いたんですよ」
「ほお。と、言いますと?」
「いや、具体的に述べられるものじゃないんですけど」
あの時の記憶が今だって鮮明に蘇り、目の前を駆け巡っている。
言葉の一つだって忘れるもんか。
自分でも夢か現実か分からない。
だが確かに刻まれた心が、ここにある―