イリュージョン〜幻戦争〜

□1章 “無”(アーク)へ U
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ドレンバというこの老婆が話す所によるとこうだ。



何らかの方法でこの世界に侵入してきた者達がいて、そいつらは数日前にいきなりこの村へやってきた。

そして「ここに我々の家族を住まわせて欲しい」と言って来たのだそうだ。

もちろん本来ラールとアークは交わってはならない定め。

村人達はそれを説明し説得したが、そいつらは聞き入れず実力行使に出た。

銃を持ち出し、発砲したのだ。

もちろん銃はこの世界の者にとっては無知の武器。村人達はパニックに陥った。




ラールの未来から来た侵入者。

あまり俺にはしっくりこない。

未来のラールは、一体どうやって時空を越える術を見つけたのだろう。



その混乱の後も彼らはラールへ帰ろうとはせず、先程の丘の向こうにある山に居座っているのだという。


ちらりと幸を見れば、何故か悔しそうに顔を歪めていた。



「…幸は、何か知ってるのか?」

「…」



幸ははっと我に返り、不思議そうに俺を見た。

その表情に、短時間で色々ありすぎて麻痺し始めていた頭は、再びハテナを浮かべる。



なんか俺、変な事言ったか?



ドレンバは俺らの方を向いて頷き、再び話し出した。



「それに対処するため、我々はラールの未来から“その内情を知る者”として“野原 幸”を、ラールの現代から“異なる未来を刻む者”として“守藤 陸”を呼んだのだ」

「えっ」



では、幸は未来の人間ってことか。

だから事情をすぐ飲み込み、自分の時代の者達の咎に顔を歪めたのだ。

そして上手く事情を飲み込めていない俺に対し、疑問を抱いた。



頭上のハテナがとりあえず一掃されるのを感じた。



「我々だけでは手に負えぬ事柄故、お主等の知恵を借りたい」

「いや…」



流れで幸を見ると、なぜか彼女は先程とは違う、好奇心に満ちた瞳で俺を見ていた。

そしてばっちり目が合うと、申し訳なさそうに目をそらす。



何か俺、変な事したか?



「…今はこの位にしておこう。

互いに聞きたい事も出来、整理しなければならぬ問題も提示した。

少し休むといい。後でセルマにこの村を案内させる。」



ドレンバはそう言い残して、ゆっくりとコムルに支えられて小屋を出て行った。


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