イリュージョン〜幻戦争〜
□1章 “無”(アーク)へ V
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暫くしてセルマが迎えに来た頃には、それなりにお互い打ち解けられていたと思う。
少なくとも笑いながら雑談できるくらいには。
「なんだ、息あってるじゃねぇか」
と、セルマが安心したように言ったのもその証だ。
「待たせて悪かったな、ちょっと寝すぎた」
「寝てたのか」
「さっきのはかなりきつい術でな。本当ならまるまる1日休むところを1・2時間で済ませたんだ。責めてくれるな」
清々しく笑って話す顔は、“運動会のかけっこを全力で走った小学生が親に向ける表情”みたいだと思った。
こんな例えが自然と浮かんできたのは、年の離れた妹を持ったが故だろう。
親は滅多に運動会なんて行けなかったので、俺が毎回見に行っていた。
「じゃあ、これからこの村を案内する。ほら立った立った」
それを聞いた幸の背筋が改まったように伸びた、ように見えた。
俺もなんだかんだと外の様子が気になっていたから、気持ちは分かる気がする。
ソファから腰を上げ軽く伸びをし、体をひねる。
暫く座っていたので背中が凝ったのか、コキコキと鳴る関節が心地よい。
ソファのすわり心地は、いいとは言えなかった。
セルマはふと思い出したように幸の方へ向き直った。
「そういえば、そっちには自己紹介がまだだったな。セルマだ」
幸は完全に不意を突かれたのかキョトンとセルマを見ると、少し間があってから慌てて自分も名乗った。
セルマは人懐っこく笑って「面白い奴だな」と言い頷いた。
少し恥ずかしくなったのか幸は肩を竦めて決まりが悪そうな顔をした。
「行くか」
ドアの前に立てば、セルマは気合を入れるように言いゆっくりとそこを開いた。
太陽の眩しさに一瞬顔を逸らす。
目を細め改めて外を見ると、そこには絵本に出てくるような風景が広がっていた。
何度も踏まれる事で自然に出来たような細い土の道が小屋の前を横に走り、その向こう側は広々と草花が生い茂って風になびいている。
どうやらここは丘の上であるようで、大地は緩やかな丸みを帯びていた。
そして遮る物の無い空は、今まで見たことも無いほど広く、蒼い。
「改めて、ようこそ。アークへ」