イリュージョン〜幻戦争〜
□2章 村人 T
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靴を脱いで、川を渡る。
澄んだ川の水は冷たく、肌を撫でる流れの感触が、柔らかくて心地よい。
渡り終えた頃には腰までずぶ濡れだったが、それも気にならないくらいに、不思議と心は穏やかだった。
そのまま靴は履かず、セルマと同じように裸足のまま歩き出す。
大地を直に踏む感触は何年ぶりだろう。
そんな俺を見てか、幸も裸足のままで歩いていた。
そして村へ入り、先程の小屋に似た家々が立ち並ぶ中をセルマに続いて歩く。
「人が居ないな…さっきまでちらほら見えていたのに」
そんな俺の呟きを聞いてか、セルマがいたずらっぽく笑って振り向いた。
「そんなことねぇよ、ほら」
彼の指さした方を見れば広場があり、そこへゆっくりと足を踏み入れるといきなり歓声が上がった。
「「ようこそ!アーク、カラン村へ!」」
驚いて辺りを見渡せばいつの間にか沢山の人々に囲まれていた。
大体50人程だろうか。
「村人全員での出迎えだ。顔合わせも兼ねてな」
セルマの声が後ろから聞こえたような気がしたが、村人たちが次々と「よろしくな」だの「思ってたより若いのね」だのと言いながら俺たちに握手を求めてくるものだから、ごちゃごちゃしてよく分からなかった。
そんな感じで人々にもまれながら、ぼんやり【ファンに囲まれる有名人ってこんな感じなのかな】と、ふと考えた。
しばらくして波が一度引いた頃には、心なしかへとへとになっていた。
幸の方も相当歓迎された痕跡が、ボサボサになった髪として残っている。
「悪いな、客なんざ滅多に来るものじゃねぇから皆興奮してるんだ」
気づけばコムルも横に立っていて、腕を組み、何か納得したように頷いていた。
「もう体は大丈夫なのか?」
「あぁ。」
コムルは俺にニッと力強く笑うとセルマを見、セルマもコムルを見て力強く笑った。
「ばぁや俺たちを除いてざっと46人いる。すぐ顔も名前も覚えられるだろ」
「面白い奴ばっかりだからな。分からねぇ事とかあったら誰にでも聞け。
皆お前らと話したがってるから喜ぶぞ」
二人に言われ改めて村人たちを見渡せば、誰もが眩しいくらいの笑顔で俺たちを見ていた。
初対面なのに、遠慮する気持ちも失せるぐらい親しみのこもった笑顔。
ここの人々は笑うのが上手い。
よし、じゃあそろそろ…とセルマが前に出て深く息を吸った。
「次は歓迎会だ!皆準備にかかれ!」
「「おう!」」