中編

□プロローグ
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柔らかそうで綺麗な、長い黒髪。
聡明そうな顔立ち。
本をめくる、しなやかな指。
華奢な体、白い肌。


いつも彼女は窓際の席でぽつんと一人で座って、本を読んでいる。
そんな彼女を、周りの奴らは口を揃えて
無口、無愛想、冷血人間、性悪女、陰気
のいずれかで評する。
見ている限り友人もいなければ、ましてや恋人もいない。
耳に入ってくる彼女に関する噂は悪い話ばかり。


俺は彼女とはまだ一度も話したことが無い。
でも、なんとなく思うことがある。
だから、彼女に関するどんな悪い噂を聞いても、俺の彼女に対する印象は翳らなかった。


だって、ほら。

窓から差し込む陽光の中で、普段はずっとかけている度のきつそうな眼鏡を、ほんの一瞬だけ外したとき。
本を読む手を止めて空を見上げて、驚くほど儚くて柔らかな微笑みを浮かべるんだ。

誰も気づかない。本当に一瞬の出来事。

俺はそんな光景を目にするたびに、時が止まったかのような錯覚を覚える。
呼吸の仕方も忘れて、その姿に魅入る。

噂通りの彼女なら、あんな表情を浮かべる事なんて出来ないはずだ。
それも皆から蔑まれている、どえらいアウェーの中で。


だから、






彼女の事を、もっと知りたいと思ったんだ。

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