短編

□晴天
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がやがやと騒がしい教室の一角。
窓際の、後ろから2番目の席。
ぼんやり外を眺める。






空は、厭味な程の晴天。






ふと右側に温もり感じ、視線を向ければ仔犬の様な丸い瞳が二つ。




「ねぇねぇ」
「ん?」
「睨めっこしよっか!」




急な提案に眉を寄せれば、にまっと笑顔が咲く。




「しよーよ、睨めっこ」
「他の奴としてこい」




額を指で小突いてやれば、拗ねたように唇が尖る。




「君とじゃないと意味ないのだ」
「誰の真似だよ、それ」




急に口調が変わり、苦笑が漏れた。
しかしこいつは引かない。


「睨めっこしろ〜睨めっこ〜」
と俺の腕を突いてくる。


「後でな」とあしらっても


「今じゃないと意味ないのだ」


と、これだ。


ため息をついてこいつに向き直ると、真っ直ぐに見詰めてくる視線と自分のそれが絡まる。






「…分かった。一回だけな」
「ん、絶対勝つから!」




不敵な笑みで宣言し、右側の温もりは少し離れて隣の席に座った。
気乗りしないながらも体を隣の席に向ける。




「にーらめっこしーましょ、笑うと負けよ、あっぷっぷ!」




特に変顔をするでもなく、真顔でガン見戦法で攻める。
それに対し全力の変顔を俺に向けてくるるこいつ。
先程の丸い瞳は見事なまでに白目を向いており、絶対俺の事なんか見えてない。
暫くの緊張状態の末、とどめと言わんばかりにパワーアップした顔面が視界一杯まで広がる。
あまりの迫力と必死さに思わず吹き出してしまった。




「わっ、汚い!うら若き女性に唾かけないでよ!」
「お前の顔が近すぎんだよ!」




抗議の声に思わず突っ込むも、中々笑いが引かない。
高校にもなってここまで全力で睨めっこを挑んでくるこいつが、なんとなく可笑しかった。




「…よかった」




ふと聞こえた柔らかい声に顔を上げれば、満足そうな笑顔。




「さっきまで、元気無かった感じがしたから」




あぁ、だから。











- 少しでも、元気になって欲しかった。








見上げた空は、清々しい程の晴天。
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