黄と青の彩色 本
□第8投
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『大輝〜、遅刻するんじゃねぇのかー?』
「……」
『……入るぞ』
本日土曜日、只今朝6:45。後二十分もしたらオレは家を出なくてはいけない。なのに大輝の奴…。
『何寝てやが……あれ?』
予想ではベッドの上で掛布団をけり落として寝ていたはずの大輝がいない。部屋はもぬけの殻だ。
『ウソだろ…。大輝がオレよりも早起きしたってのか…?』
5:00に弁当を作るときに確認こそしなかったけど、寝てると思っていたのに…。
『(大輝の起きる音でオレが起きないとも思えねぇし…)』
「何人の部屋にいんだよ」
『おわっ!?』
考え込んでいると突然背後から声がした。慌てて振り返ると汗だくな大輝がそこにいた。
『な、な…』
「あー、飯ありがとな。あるとは思ってなかったわ」
『あ、ああ…』
珍しい。大輝が早起きして朝のロードワークに出るのも、オレに対してお礼を言うのも。
『…なぁ、何時に起きたんだ?』
「あー…4:45ぐらいか?」
『何で!?』
「あん?なんでって…起きちまったから」
『……あっそ…あ、今日オレ入部試験で帰るの遅くなるから』
「おー。せーぜー頑張れよ」
『なんか応援されてる気にならない。ま、頑張るわ』
「んー」
シャワーを浴びに向かう大輝の背後にそう投げかければ、右手を挙げて部屋から出て行った。
『……さて、行くか』
昨日のうちから準備は済ませてあるので、先ほど作った弁当と水筒を鞄にしまい、バッシュを確認して家を出た。
―海常高校―
「あ、おはよー美雨」
『おはよ、栗』
今日は待ち合わせは駅ではなく、高校の校門付近だった。
「とうとう入部試験だね!」
キンチョーするねー!とは言いながらも表情は遠足に行く前の小学生そのものだ。
「あ、おはようございますです、青峰さん、滋野さん」
「おはよー、青ちゃんに滋ちゃん」
「あ、須藤姉妹じゃん。おはよー」
『はよ。っんで、“青ちゃん”って何?』
「んー?何ってあだ名だよあだ名!」
「…すみませんです、真奈美ねぇが…」
『いや、別にいいけどよ…』
須藤双子とともに体育館へと向かう。姉(真奈美)のほうは妹(愛華)と違い常時ハイテンションらしい。
「あ、美雨ちゃーん!!」
『キャプテふぐっ!?』
体育館前の通路を更衣室兼部室目指して歩いていると、体育館の扉が開いた。中から出てきたのは部長である夢だ。隣に亜紀もいる。
そして夢は美雨の姿を見つけると、素早くやってきてそのお腹にダイブした。先輩らしからぬ行為だ。
『キャ、キャプテン…』
「キャプテンなんて!夢でいいわよ美雨ちゃん!」
『…夢さん』
「何?」
『とりあえず離れて、くだ「あ、敬語いらないよー」……いや、それは…』
「夢…」
隣で呆れたようにため息をはく亜紀先輩。できることならこの状況を救ってほしい。
「今日入部試験でしょ。お互い頑張りましょうね!」
『はい』
漸く解放され、更衣室でTシャツとハーフパンツに着替える。そうこうしているうちに一年生は全員集まったようだ。
「…青峰さん」
『ん?あー、荒垣さん、だっけ?』
「佳奈でいいよ」
『じゃあ佳奈、何の用?』
「このゼッケンをつけてって先輩が…」
手渡されたのは赤いゼッケン。よくよく周りを見ればほかの一年はみんな緑のゼッケンだ。何で色が違う。
それにみんなもともと用意されていたものを自分で取っている。なぜオレだけ手渡しなんだ。
『ああ、ありがとな』
怪しすぎる…。