黄と青の彩色 本

□第2投
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「おい、美雨!」


『なに?』


「バスケってのはな、しかめっ面してやるもんじゃねぇんだよ」


『は?』


「もっとこう、笑え」


『オレに笑えとか、』


「そんなのやってみなきゃわかんねぇじゃねぇかよ。ホラ!」


『ちょ、何しやがる!』


「笑え」











『…夢、か』



久しぶりに幼いころの夢を見た。まだ大輝が純粋にバスケを楽しんでいたころの夢。そしてオレの口調が男みたいだった時の夢。
そう。オレは最初男みたいに育っていた。大輝がああだということも影響していたのだろうが、それに気付いた母親は怖かった。
そして口調は完全に治したが、いまだに一人称は“オレ”のまま直せていない。



『…朝食作らないと』



スウェットのまま階段を下る。両親はオレらを置いて世界一周の旅に出たらしい。飯を作るのはオレの役目だ。



『…こんなもんかな』



目の前には簡単な朝食。今日は入学式。弁当はいらない。



「…」


『いつの間に来た?』



オレも食べようとキッチンから出ると、既に朝食に箸を付けている大輝がいた。制服姿だが寝癖がついたままだ。



『今日弁当ないでしょ?』


「多分」


『…』


「そういや昨日、親父たちから電話あった」


『何て?』


「まだまだ帰らねぇから家のことヨロシクだってよ」



一瞬、実の両親に殺意が芽生えた。



「じゃ、オレもう行くわ」


『寝癖直してから行って』


「めんどくせー」


『一緒に行ってくれるさつきが可哀想だって』


「別に頼んでねェしよー」



そうは言いながらも洗面所に向かう大輝。…食器ぐらい戻して行けよ。



『…さて、オレも行くか』



海常は神奈川県にある。ここは東京だから早めに行って損はない。それにもうそろそろ栗との約束した時間がせまっていた。










「遅いよ美雨ー」


『ハイハイ』



神奈川の駅に居た栗に適当に謝り、さっさと海常へと向かう。



「何で昨日のメール返信してくれなかったの?」


『めんどーだった』


「うわ、大輝君みたい。内容は読んだ?」


『一応』


「キセキの世代、誰が入ってくるんだろーね!」


『そんなの知るか』



海常の正門をくぐり、クラス分けの書かれた紙を見に行く。



「美雨、一緒だよ!1−A!!」


『ふーん』



別に頼んでもないのに知らせてくれた栗。先頭切って歩いて行く栗を見失わないよう追いかけていく。
と言っても、栗は165p。そこらへんの女子よりは普通に高い。そしてオレは170p。余裕で頭一個分は突き出ている。



『(ん…?)』



その時、視界の端に映える金髪が映った。咄嗟に後ろを振り向くが、そこに金髪はない。まさか……



『(ま、いいか)』



突然立ち止ったオレを不思議に思ったのか、栗が側に来ていた。



「どうかした?」


『いや、何でもない』



既に1−Aに着いていた。中に入れば、一気に視線が集中した。



『…なぁ、オレってそんなに変?』


「違うよ。美雨が綺麗だからだよ!!」



両手を握ってなぜか力説する栗に、お世辞はいいと言いながら当てられた席に付いた。それを見た栗は、



「(お世辞じゃないのに。女の私から見たって美雨は綺麗で格好良くて…惚れちゃいそうなぐらいなのにさー。
ほら、今だって周りの女子や男子の目線に気付いてないでしょ。みーんな注目しちゃってるよー…)」



とか思っていたり。



「体育館に行くから廊下に並んで!」



栗から離れ、本を読んでいたら聞こえてきた声。教卓を見れば結構若い女の先生が立っていた。



「行こう美雨」


『ん』




  
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