黄と青の彩色 本
□第3投
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急きょ1対1の相手が変わり、なぜか先輩である夢が務めることとなった。
『(何かあったのかな…)』
「(私より大きい…)」
夢は167p。美雨はその+3pだ。見上げるほどでもないが、女子でこの高さは珍しい。
「手加減しなくていいからね」
『するつもり、無いですけど』
ボールは美雨に渡された。5点取った方が勝ちらしい。
『(さて、どうするか)』
栗とやるつもりでいたため、バッシュを持ってきていない。夢はもちろん履いているが。
『(しかたないか。持ってこなかったオレが悪いんだし)』
腹をくくり、上履きのまま走りだす。直ぐについてくる夢。
『流石、主将ですね』
「新入生にナメてもらっちゃ困るよ」
バックチップしようと後ろから腕が伸びてきた途端、美雨は持っていた腕を素早く変えた。そのまま急停止。
『(んー、この動きに付いてこられるって…)』
その場でドリブルし、様子を伺う。
「貰った!」
ボールは奪われ、今は夢の手の中。美雨は動かない。ボールはそのままリングへ吸い込まれるようにして入った3Pシュート。
美雨はただ、それを食い入るように見つめていた。まるで野生の獣のように。
「まずは3点!」
ボールは再び美雨へ。…というか、既に1対1じゃなかった?普通のゲームじゃん。
『すいません』
「え?何が?」
『オレ、先輩のことナメてました』
突然の告白。流石に優しい夢も、口角がひくつく。
「ちょ、あんた…」
『やっぱバスケは本気でプレイしてこそですね』
背筋が凍るような笑みを浮かべると、美雨は先ほどの早さとは比べ物にならないぐらいの速さで夢の横を抜けた。
「な!?」
すかさずバックチップしようとした夢の手を踊るように避ける。しかし、そこはゴール裏。
「(貰った!)」
『まだですよー』
呑気にそう言うと、美雨はゴールの裏からボールを投げ、リングに入れて見せた。
「やるじゃねーか」
ちょうどその時、青峰達が体育館の中に入って来た。
『…何の用』
「何の用って…お前を見に来た」
『来る必要ねーよ』
「お、この子?」
『…誰』
「ワシは今吉翔一や」
一気に騒がしくなる体育館。しかも美雨は1対1を中断されたためか、いささか機嫌が悪い様子だ。口調が荒くなっている。
「ちょ、貴方達なんですか」
夢が近くにいた青峰に問いかける。
「あ?オレはこいつの兄貴だよ」
そう言って掴んだのは美雨の頭。
『兄貴ったって、お前のが1分早く生まれただけじゃねーかよ。つーか手ぇ離せ』
「でも兄貴なのは変わりねーだろ。ってかお前、キレてんな。口調戻ってんぞ」
『どっかのバカ兄のせーでな』
ガシガシと乱暴に撫でられる。あ、そうだ。
『なぁ、大輝』
「あ?」
『バッシュ持ってる?』
「持ってっけどよ、なんだよ」
『貸せ』
「うわ、お前持ってきてねーのかよ」
『体験できるとは思ってなかったんだよ。いいから貸せ』
「それが人に物を頼む態度かよ…しょーがねーな、ん」
差し出されたバッシュを受け取り、上履きから履き替える。
『でか…』
「そりゃそーだろ」
『ま、上履きよりはましか』
続きするからコートから出ろ、と大輝の背を押しながら壁際に追いやった。もちろん、他の人も。
「…美雨ちゃん、キミ本当に青峰大輝の妹?」
『嘘ついてどーすんですか、先輩』
「(だから監督はお手並み拝見って…)」
『始めますよ?先輩』
ニヤリと笑う彼女に、夢は再び全身の毛が逆立つような感じに見舞われた。