黄と青の彩色 本
□第5投
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「ねぇ、亜耶に謝ってよぉ」
『…』
「ねぇ、聞こえてるのぉ?」
『クズの声何か聞こえねェなぁ』
ドアに手をかけて亜耶を睨みつけるその姿は、まるで獰猛な虎のようだ。もう手のつけようのない虎。
『つーか、何でお前なんかにオレが謝らなきゃいけねェんだよ』
「なんでってぇ?亜耶が謝れって言ってるなら謝らなきゃいけないんだよぉ?知らないのぉ?おバカさんねぇ!」
『…わりぃけど、お前より頭いい自信はある』
「そぉ言う意味じゃなくてぇ、頭がイカれてるって言ってるのぉ。貴方が大輝の妹なんてありえないw」
『信じたくねェなら信じなきゃいいだろ。つーかお前、大輝の何だよ』
「亜耶わぁ、大輝の彼女さんなんだよぉ!キセキの世代の皆は、亜耶にメロメロなんだからぁ!」
思わず口を抑えた。大輝に彼女が出来た何て聞いてないし、もしできたとしてもこんな奴は願い下げた。
ま、アイツがこんなブリっ子クズ野郎に興味が出るとも思えないが。ていうか先輩方、殺気がタダ漏れですよ。気付かないコイツもコイツだけど。
『そんな話、聞かねェな』
「亜耶は皆のアイドルなんだよぉ!皆亜耶に来てほしいって言ってたけどぉ、此処に決めたんだぁ!」
「ちょっといいかなー?」
今度は殴りそうな雰囲気の美雨の前に割って入ったのは栗。
「山村…だっけ?言っとくけどアンタより美雨の方が数千倍も綺麗で可愛くてアイドルだ!
寧ろキセキの世代がメロメロで自分の高校に引き込もうとしてたのは美雨だっての!バスケ経験もないくせして知ったかぶりするな!」
そうだそうだと同意する同学年と先輩方。チョイ待ち、何で同意する。しかも話し変な方向に飛んでない?
「もうそろそろモデルデビュー決まってる美雨に楯つくなや小娘ぇ!手ぇ出すなら私が許さないからな!」
『…栗、お前はオレの何だ』
「そんなの決まってるじゃん。美雨のファン第一号でモテモテな美雨のボディーガーブフォアッ!」
『黙れ』
栗を殴ることでその口を止めさせた美雨は、もう一度亜耶の前に立ちはだかる。
「な、何よぉ!」
『言っとくけどお前、キモイよ』
「なっ!」
『そのキャラウザイ。そのうち周りに誰も居なくなるからな。これは忠告だ。聞き入れる入れないはお前の勝手だ』
そう言って美雨はミーティングルームを後にした。
「…亜耶に楯ついて、どうなっても知らないんだから…!」
ギリリと歯を食いしばると、亜耶は先輩の方に向き直った。
「皆わぁ、亜耶の味方ですよねぇ?」
「もちろん。亜耶ほど可愛い子はいないし」
「ホント、美雨って何様って感じ」
同年代の子が肩に手を置き、涙ぐむ亜耶の頭を優しく撫でる。
「MVP取ってる子に向かってあの態度は無いね。さっきはゴメン」
「結局、実力の差がちがうし。私もごめん」
夢と亜紀も近寄り、亜耶の味方をするような態度をとる。
「…さっきは山村とか名字で呼んでゴメン。美雨怖くて逆らえないから……ああ言うしか無くて」
「いいよぉ謝らなくて。みぃんな亜耶が悪いんだから…美雨ちゃんは悪くないんだよぉ!」
「亜耶…ありがと」
皆が自分の味方。高校生活はいい幕開けで始まった……。
「…何言ってんの」
「ゴメン。私も大会であなたの姿全く見たこと無いんだけど」
「え……」
しかし、同年代のこの反応は全く違う。助けを求めるように先輩の方を向くと、にっこりと笑った夢と目があった。
これはいける。亜耶はそう確信した。夢はその気持ちを知ってか知らずか、亜耶に肩に手を置いた。
「亜耶ちゃん」
「せんぱぁい、やっぱ分かってくれる「黙って?(黒)」ふえ…?」
「私、あなたみたいな子とは気が合わないんだぁ。美雨ちゃんの方が好きかな?だから君、悪いけど退部してくれない?」
「君みたいな役に立たない子はいらない。部の荷物になるだけ」
夢と亜紀は冷たく言い放った。
「そうねぇ、私もそう思うわ」
今まで黙って聞いていた理恵までもがそう言う。
「監督…」
「せっかく入部してもらって悪いんだけど、私は基本的に使えない子はバッサリ切り捨てる主義なの。
まだ入部期間中だし、他の部を当たってみてくれないかしら?私達にとって必要なのは貴方じゃない。美雨ちゃんなのよね」
所詮妄想は妄想だ。現実はそう甘くはない。
「さようなら、山村亜耶さん」
「〜〜〜〜ッ!」
亜耶は声にならない声を出すと、部屋を飛び出していった。
「さて、邪魔ものも居なくなったことだし、美雨ちゃん探してくるね」
「…夢、お前青峰の事気に入ってるな?」
「もちろんだよ亜紀。あんなにカッコ可愛い子、初めて見る!私のお気に入りだよ!しかもモデルデビューするんでしょ!?」
「ま、まぁ…今月中にって言ってましたけど…(…あれ、これって言っていいんだったっけ…?ま、いいか)」
「雑誌買わないとね!」
スキップするような足取りで出ていく夢に、一つの疑惑が浮上した。
「…夢は意外と百合かもしれない」
→あとがき