-桜が生まれる日-

□〈桜が散った頃に〉
1ページ/2ページ



〈桜が散った頃に〉



 朝日浴びる早朝の、活気ある町に響く声。
侍が行きかう時代に、警備隊育成道場が開かれていた。



「はっ!!」



「うわっ!」



「そこまでっ」



 負けて相手を見上げる彼。この道場の跡取りであるスオウだ。



「スオウさん。相変わらずですねぇ」



「・・・くそ・・・」



「今日もか?」



「またスオウさん負けたぞ」



「跡取りがあんなんじゃなぁ」



「才能ないんじゃね?」



 聞こえてくる罵声と見下した視線。言い返したくとも本当のこと。
力で示せといわれても負けっぱなしの彼には出来ないと感じていた。
彼が強く拳を握る。だが周りの視線は次の標的に移っていた。
 最近、この道場の居候になったシグレという男。
線が細く、女の様だと門弟になめられていた。



「礼! 始めっ!」



 周囲からはあんなに細いんじゃぁ。組み敷いてしまえば終わりだ。
少し脅かせば道場からも出ていくだろう。など、相手を軽んじた声が飛び交った。
 跡取りは自分に言われてるわけではないと分かっているのに悔しくなり、
周りの者に睨みを効かせようとした。だが、



「覇っ!!」



 彼の覇気のある声に皆黙る。彼の束ねた髪が揺れたかと思うと、
相手役の木刀が飛ばされ首元を突かれる寸前であった。



「そこまで!」



「ありがとうございました」



「・・・」



 凜とした姿に跡取りは目を奪われた。
稽古も終わり門弟たちが帰って行く。跡取りは縁側で今日の稽古を思い出していた。
浴びせられる罵声。周囲の期待。それに応えられない不甲斐なさ。それを思うと悔しくてたまらなかった。
師である父はもう期待もしていないのか何も言ってこない。



「くそ!・・・やめてやる!」



 重圧から逃げる様に木刀を投げ捨て悪態をつくと道場からおいと声を掛けられ振り返る。
そこにはシグレがまだ木刀を持ち、彼を見ていた。






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ