-桜が生まれる日-

□〈出来た強い相棒〉
1ページ/1ページ




「ほら、もっと腰を落として、足腰が疎かだとすぐ叩かれるぞ!」



シグレとの居残り稽古は葉桜が散り、紫陽花が過ぎ咲き、朝顔が咲き始めた。
その頃には門弟たちに負けることは少なくなってきたが、スオウは一度もシグレに勝つことが出来ていなかった。



「せいっ!!」



「覇っ!!・・・また私の勝ちだ! 
スオウ。いつ私を負かしてくれるんだ?」



「くっそぉ!次は絶対負かしてやる!」



「ははは・・・。少し休憩しよう。
汗を流してくる。いいか!ついてくるなよ!」



「行かねぇよ」



 縁側で風に当たるスオウは、シグレとの稽古を思い出していた。
歩幅はスオウの方が広くすぐ間合いに入ることが出来るのに、
シグレはそれに合わせて足をさばき攻撃を受け流して木刀を弾き飛ばす。



「・・・やっぱつえぇなぁ」



「・・・スオウ。精進してるか」



「親父!なんだよ・・・」



「精を出す息子の様子を見にきて何がいけない」



今まで負けっぱなしだったスオウにとって
父親から何か言われるのはとても嬉しいことだった。



「スオウ。小耳に入れていて欲しいことがある」



「なんだよ。」



「秋雨組は知っているな」



 ここらへん一体を根城にしている組だ。
今は女が頭を務めていると噂になっている。



「そこの次期頭首が行方を眩ましたと組員から人物絵を渡された。」



父親から人物絵を渡されてみる。
そこに書かれているのは年も近いくらいの女性。どこかで見た時のある顔つきだ。



「頭首って女か!?・・・お嬢さんがまた無茶なことを・・・」



「スオウ。伝えるだけにする。見つけ出そうとか思うな」



「なんで?」



「その必要がないからだ」



 父親はそれだけ言うと人物絵を持ってさっさと行ってしまった。
本当に伝えるだけで終わったそれは自分に何もするなと言っている様に思えた。
少しは強くなったと感じていたスオウだが、
頼りにされていないと感じる父親の行動にスオウはため息をついた。



「・・・オレは役立たずってか・・・」



 ひとり落ち込んでいるとパタパタと急ぎ足が聞こえた。



「スオウ!聞いてくれ!!」



急ぎ足と、輝いた視線がスオウを捕らえる。
シグレは勢いよく座ると、輝いた視線を向けたまましゃべりだした。



「今日、祭りがあるらしいんだ! 一緒に行こう!」



「はぁ?」



「なぁ頼むよ!」



 お願いという姿勢にスオウはそれじゃぁと立ち上がった。



「オレも汗を流してくる。準備ができたら行こうぜ!」



「! ああ!」



 気晴らし半分、憂さ晴らし半分の思いでスオウは祭りへ向かった。






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ