-桜が生まれる日-

□〈空に花が咲く時、初めてみた涙〉
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人込みから抜けた山道に作られた神社の石段。
ここなら町も一望でき、花火もキレイに見えるのだ。



「すごいな・・・。この町にこんなに人がいるなんて思わなかったよ」



「なーに言ってんだ。毎年これくらいの人が集まるじゃねぇか」



「そうなのか!そうか・・・私はあまり外に出してもらえなかったからな・・・
ましてや、祭りになんて行けなかったからな」



「なんだ? 祭りにも出ず、ずっと稽古していたっていう奴か?」



「そんなんじゃないさ」



「ずっと稽古してたんじゃ強ぇわけだ」



「お前も十分強くなったじゃないか」



「勝てない相手に言われてもなぁ。
・・・オレは弱いからさ、強いお前が羨ましい」



「羨ましい・・・」



 スオウの言葉にシグレから笑顔が消える。
それに気付かずスオウは言葉を続けた。



「あぁ。オレはあの道場の出来損ないさ。
お前には一度も勝てねえし、門弟には勝てる様になってきたけど、
親父はオレに話はするが手を出すなって態度されるし・・・強いお前が、羨ましいよ!」



 不貞腐れたように言うスオウにシグレは立ち上がり、スオウの頬を叩いた。
一瞬、何が起こったか分からず、シグレをみると振りぬいた手を降ろしていた。



「何すんだよ!!」



「羨ましいのはこっちだ!!」



 シグレの大声。夜の空に花火が咲き、二人の顔を照らす。
シグレの表情は怒りよりも悲しみを映しており、一粒、涙をこぼした。



「お前が羨ましいというそれは、私の生きる術だ!
強くなければ必要とされない、切り捨てられてしまう!
いつ、私の居場所が知られてしまうかも分からない。自由を失ってしまう恐怖に毎日怯えて・・・・。
私には明日なんて来るのかも分からない・・・。けど、お前の明日は決められてないじゃないか!明日がきゃんとあるじゃないか!
それがどれだけ羨ましいことか・・・!!」



 人知れず怯えていた事、明日が当たり前じゃない事、当たり前を羨んでいた事、
何か抱えている事を知りスオウは自分が言った言葉を恥じた。



「シグレ・・・ごめん!オレ跡取りって考えると不安になっちまって、
お前に当たっちまった!だから、シグレ・・・泣くなよ・・・」



 立ち上がりシグレの頭を撫でる。
今まで一緒に居たのに初めて、彼の小ささに気づき驚いた。
この小さい体にどれだけのものを背負ってるかは分からない。
教えてほしいと言ってもきっと話してくれないだろう。
 スオウには、ただ彼のそばに寄り添う事しか出来なかった。






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