短編

□言葉の続き。
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『うわぁ!ピアノだ!』



ピアノを目の前にして、喜ぶミキ。




『本当に酒場にピアノがあるんだね、ソロ!』



俺は今、ミキと二人で町の酒場に来ている。


今朝、情報収集のために行ったこの酒場にピアノがあることを話したら、ミキが行きたがったのだ。




幸い他の奴らがいなかったので、楽に俺だけが同行することができた。



ソロ「さすがに夕方だけあって客が多いな。」



それに酒くせぇ…。


未成年の俺らは当然酒を飲まないため、こういう場に慣れない。



その時、カウンターから声をかけられた。



マスター「やぁこんばんは。お客さん、確か今朝も来てなかったかい?」


ソロ「あぁ。今はこいつとピアノを見に来ただけなんだ。」


マスター「たまにはお酒も頼んでいってくれよ」


ソロ「悪いな。俺達まだ未成年なんだ。」



なんてことを話していたから、ミキと客の一人との会話は全く聞こえていなかった。







男「姉ちゃん、飲まないのかい?」


『え?私?』


ピアノを眺めていたら、ふいに後ろから声をかけられた。


男「酒場に来て飲まないんじゃあ意味がねぇだろぉ。」


この人お酒臭い…。
絶対酔ってるよ。


『いえ、私まだ未成年ですので。』


男「だったらこれはどうだい?」



差し出されたのは、オレンジジュースに良く似た飲み物だった。


『これは?』


男「オレンジジュースだよ。」



へぇ。酒場にもジュース置いてるんだ。

ちょうど喉渇いてたし、ジュースなら大丈夫だよね?


一応ソロに確認しようとしたが、何かマスターとお話してるし止めとこう。


そう思い、私はそのオレンジジュースを飲んだ。




……。


な…なんか…。


フワフワする。

しかもテンションが上がってきた。


これってホントにオレンジジュース?







ソロ「おいミキ。そろそろ帰るぞ。」


俺がそう声をかけてミキの方を見ると、何だか様子がおかしい。




『ふふふふふ…。今の私はSHT…。』


※SHT…スーパーハイテンション


ソロ「はぁ?」


『あー暑い。そうか、この服が原因かぁ。そぉと決まればさっそく脱いじゃえー!』


ソロ「お、おい!何言ってんだ!」



『ミキちゃんの出血大サーヴィス!!』



おかしい。明らかにおかしい。

その時、ふとミキの近くの飲みかけのグラスが目に入った。


少しオレンジジュースに似ているが、アルコールの香りがする。

ミキはこれを飲んで酔ったのだろう。



ソロ「はぁ…。ミキ、帰るぞ。」


ほざきやがれ



駄目だ。
今のミキに何を言っても無駄だと分かった俺は静かにラリホーを唱え、ミキを眠らせた。

眠ったミキの背中と膝の裏に腕を差し込み、いわゆる“お姫様抱っこ"をしかけて、やめた。

周りの奴らがニヤニヤと笑いながら見ているのだ。


俺は仕方なく、ミキを背負って帰ることにした。





***



宿屋への帰り道。


眠っているはずのミキがふと呟いた。



『…ソロ…?』


一瞬起きてるのかと思い、一応返事をした。


ソロ「何だ?」


『今日はありがとう…。連れてってくれて…。』


ソロ「別に。」


『ホントはピアノよりもソロと二人でお出かけしたかっただけなの…。』


きゅ…とミキの腕に少しだけ力がこもる。


『別にって言ってもちゃんと連れてってくれた…。私ソロのそういう優しいところ………』



こんな距離でなんてことを語るんだ。




その言葉の続きは、ミキの静かな寝息だった。




END
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