恋愛上等!イケメン学園[片思い編]
□素敵な片思い−9月/love Cinema−
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そして、あの夏の日の出来事なんて、何事もなかったかのように新学期が始まった。
クラスでは、文化祭の出し物を何にするか、話し合いが行われていた。
誰かが、女子がいるのはうちのクラスだけだから、山崎を中心に何かやろうぜと言い始めた。
嫌な予感がしたけど、結局私をヒロインにした恋愛映画を撮ろうということに決まってしまった。
大好きな先生が見ているのに、お芝居とはいえ、他の男の子と恋愛なんて… 乗り気じゃない私をよそに、企画はどんどん進んでいった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「よう、主演女優!」
裏庭でぼんやりしていると、ニヤリと笑いながら先生があらわれた。
あの夏の日以来、久しぶりに2人で会話した、第一声がこれだ。
私は先生をジロリと睨みつけた。
「他人事だと思って、すごく楽しそうですね!」
「ちっとも、楽しくないぞ。」
そういいつつも、先生は私をバカにするようにニヤニヤしている。
私と先生は、横並びになって鳩にパンくずをまいた。
「先生も何とか言ってくださいよー!!
私、お芝居なんてやったことないし、まして恋愛映画なんて恥ずかしくてできませんよ!!」
「……生徒が自主的にやっていることだからなあ。残念だけど、俺には何にもしてやれねぇなぁ。ハア〜。」
(先生のため息、わざとらしっ!!)
「そんな事言わずに〜!
先生が『そんな企画却下だ。(ギロリ)』って一言言ってくれれば、普通のたこ焼き屋さんか何かになるじゃないですか〜!」
「お前、今の俺のモノマネか?」
先生がムカついた顔をした事にも気付かないで、私はレパートリーを披露した。
「えへへ。いろいろできますよ。
『お前ら、いい度胸してるじゃねぇか。覚悟しとけよ。(ニヤリ)』とか!」
「…お前もいい度胸してるじゃねぇか!」
「イタタタタタ!!」
先生に、むんずと頭を鷲掴みにされた。
「先生、痛い痛い!離してー!」
払いのけようとして、先生の手を掴んだ。
あ…
ずっと触れたかった先生の手だ…
あの、右手を繋いだ日から何度も思い出しては触れたいと願っていた先生の手…
(大きくて、堅い、でもスラリと指が長い先生の手…)
私は思わずその手を離せないでいた…
(先生にとっては、女の子の手に触れる事なんてどうって事ないんだよね。
でも、私にとってはこの一瞬で、ものすごいエネルギーが湧いてくるぐらい、嬉しい事なんだよ…)
私は心の声を口に出せない代わりに冴島先生の顔を見つめた。
先生の顔は、いつもと変わらず表情が読めない。
遠くで誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。
「あっ、私、掃除の途中だった!戻ります!!」
慌てて手を離して私はその場を走り去った。
走り去る間際に、
かすかな、ため息が聞こえたような気がした。