世界一初恋
□陽炎
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8月15日
耳を裂くような蝉の鳴き声で目が覚めた
時間は12時半くらい
仕事が休みだからといって眠りすぎてしまった…
お腹もすいていない。やることもない
確か吉野が画材を欲しがっていたな、と思い出し、財布とケータイを持って外へと出た
公園の前を通ると、猫がこちらを見ている。いつもは気にもとめないが、気づけば猫の側に立っていた
すり寄って来る猫の頭を撫でていると
「…トリ?なにしてんの?」
「吉野か。…画材、買ったのか」
無駄足だな、と心で言ったが、吉野と会えたからどうでもいい
吉野も猫の頭を撫でる
「可愛いな〜」
「お前の方が可愛い」
「なっ!?」
「それにしても暑いな。蝉が五月蠅い」
「…なんだよそれ。でも、まぁ夏は嫌いかな〜」
猫を撫でながらふてぶてしく呟く吉野に思わず笑ってしまった
「あっ!!」
急に猫が逃げ出してしまった。「待て」と言って猫を追いかけて走り出した吉野
そして……飛び込んでしまったのは…
赤に変わった信号機
一瞬、なにが起こったのか分からなかった
バッと通ったトラックが…
吉野を引き摺っていた
血飛沫の色と吉野の香りが混じってむせ返りそうになる
陽炎、猫、蝉が笑っているような気がしたのは…
見間違いなのだろうか……?
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