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□ただの昔話
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ただの昔話

「...貴様等のような。頭の悪い奴に構ってやる必要はない。」

仙蔵は話しかけてきた同級生にそう冷たく言い放つと「ふん」と言って教科書に視線を戻す。
そんな奴を見かねた文次郎は仙蔵に叱咤した。

クラスの全員は驚き。二人に目をやる。文次郎はそんなことはお構いなしに文次郎は続けた。
「仙蔵!! お前...いい加減にしろ! 自分を天才だと思うのは別にかまわねえ。でもな、自ら嫌われるような事ばかりするなっ」

「...そうか。すまなかったな。」
仙蔵はその一言だけ残すと無言で教室を出て行った。その表情はとても悲しそうに見えた。
少しばかり責め過ぎただろうか、と文次郎は反省し。仙蔵を追いかけた。

*****

「私は...そんなにも嫌われていたのか...。」
学園にある古い建物にアイツは潜んでいた。それはとても簡単に見つけられる場所。
きっと誰でもいい。誰かに見つけて欲しかったんだろう。でももしかしたら誰でもいいのではなく「文次郎」に見つけて欲しかったのかもしれない。
「仙蔵。此処に居たのか。」
「何しにきt「お前を追っかけに来た。」
「くだらない。俺のような奴を追っかけてお前になんの利益があるんだ?」
文次郎は一瞬難しい顔をした。
「...そうだな。お前の人に知られたくないくらい弱い所を見られる事だな。」
[な...んだと!? 文次郎。お前...」
頬を赤く染めたのは仙蔵だった。
「まあ、何だ。仙蔵。お前は確かに天才だ。しかし、お前は完璧では、ない。誰だってそうに決まってる。
 完璧な人間などこの世にはいねえからな。居たらいたで近づきにくいからな。誰だって。お前を天才と認めているが。
 完璧とは認めていない。だからああやって話しかけているんだろ?でもそいつらに対し、ひでえ言葉をふっかけやがって。
 ......なあ。お前は他の奴らと仲良くはしたくないのか?この五年間、ずっとお前と同じクラスで。お前を見てきたが。
 今日のようなお前は見たことがねえ。長次や小平太。伊作に留三郎も知らないだろうな。あんなお前は。
 仙蔵。まあ、なんだ。そんなに完璧にこだわるな。お前は完璧より。天才の方がお前らしくていい。
 クールで後輩には厳しく。己にも厳しくし。後輩思いなお前がみんな好きなはずだからな。一年生の憧れの的にもなっているしな。」

そう。文次郎は説教じみたように仙蔵に言った。
「フッ...。いかにもお前らしいな。そうだな。お前のその言葉、信じてやる。裏切るなよ?」

「わかってらぁ。」

後々仙蔵は更なる人気と人望を得た。
一年前の話。

*****
「なんだよ。仙蔵。それ、一年も前の話じゃねぇか。」
「ああ、そうだ。何か、文句でもあるか?」
文次郎は少しだけ黙ると笑みを浮かべて言う。

「いや、ねえな。」

[ただの昔話だけどあの時、君が追っかけてくれなかったら。今の私は居ないだろう。]

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