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□あいしてる、
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冬の澄んだ空気、ほのかに暖かい光が、慌ただしい毎日を、今日の私を優しく包んでいる。
中庭近くの廊下、入り込む落ち葉を掃く人の影がある。
「山田七席!次は十番隊舎前の掃除お願いします!」
「はーい!」
振り向き、そう返事をする彼を見る。
真冬だと言うのに彼の額を流れる僅かな汗が、その必死さを物語っている。
全く、この花太郎と言う男は、どこまでお人好しなのだろう。
今しがた隊員に言われた清掃区域は、彼のものではないと言うのに。
思えば、こいつはいつもそうだった。
学生時代からあまり変わらないほほ笑みを浮かべて掃除し続ける花太郎を見る。
面倒な委員を押し付けられたときも、宿題を写させろと言われたときも、いつも柔らかい仕草と共に引き受けていた。
だから、私は。
右手には、小さなリボンのかかった箱。
これをあいつに差し出したら、どんな顔をするだろうか。
ほほ笑みだろうか、困った顔だろうか。
一心に箒を動かす花太郎に近付く。
「あ、名無しさんさん」
にこ、と笑う花太郎。
ほほ笑み。
箱を持った右手に力が入る。
「花、これ…」
ずい、と箱を差し出した。
花太郎が驚いた顔をする。
「これ、僕にですか?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
浮かんだ笑顔に安堵する。
甘いチョコレートを包んだ箱、
それに込められた、私の甘い疼きが、花太郎の手に渡る。
あまい、甘いほほ笑み。
痺れるように、あまい魔法。
あいしてる、
願わくば、その魔法で溶けてしまいたい。
終
(20070214:みゆみ)