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□兄妹
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雨月堂の襖を開けると、浮竹の隣に彼女がいた。
「あ、京楽さん。こんにちは」
聞けば、十三番隊では昼食に彼女の店の弁当を届けてもらっているのだという。
「夏の新作弁当を試食していただいてるんです。京楽さんも一緒にいかがですか」
「いいのかい」
ちょっと気分転換に浮竹とお茶でも、と思って来たのだが、思わぬ幸運だ。
「うん、見た目も涼しげでいいね」
「味もいいぞ。俺のオススメはその、右上の胡瓜のやつだ」
浮竹に薦められたおかずを食べ、おいしい と彼女を見ると、嬉しそうに微笑んでいた。
「それにしても、名無しさんはずいぶん大人っぽくなったな」
浮竹は愛しげに目を細める。
兄弟の多い浮竹は、どうも、年下の者に対する愛情が人並み以上のようだ。
「食堂の手伝いをさせてもらえなくて拗ねていたのが、つい昨日のことのようだ」
「おかげさまで、今では 少しですが調理も任せていただけるようになりました」
笑いあう様子は、本当の兄妹のよう。
無性に、間に割って入りたくなる。
「浮竹さんは、私にとって兄のような存在なんです」
「それは光栄だな」
「名無しさんちゃん、ボクは?」
「もちろん、京楽さんも兄のように大切な存在です」
この間はご馳走さまでした、と頭を下げる彼女は屈託ないが、京楽の心中は複雑で。
(兄、かあ…)
この想いは、前途多難である。
「名無しさんに彼氏ができたら、俺は泣くだろうな」
そう笑う浮竹のことばが、胸に刺さる。
(110513)