BOOK5

□No.22
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『ねぇ、針射す瞬間とかって、やっぱローが痛いの?』


涼しい顔で作業を進める本人にそう尋ねれば、俺を誰だと思ってやがる。って馬鹿にした笑顔…腕利き外科医にかかりゃあ、痛みも無いってか。流石ですねー。


「たとえお前の身体が傷の付かねぇもんだとしても…お前を雑に扱ったりしねぇよ」


お前も自分の身体を雑にするな。隠れて鼻で笑ってた私に、ローは視線を落としたままサラッと、そんなこっ恥ずかしい事言ってくるから…思わず顔が熱くなった。全くこの男は…不意打ちなんて卑怯だぞ!!


「そういやまだ聞いてなかったな…」


相変わらず手際良く血を抜いていくローをニヤニヤしながら見つめていると、ボソッとそんな事を呟かれた。なんだ?


「さぁ…説明してもらおうか」


コトッ…と役目を終えた注射器を脇に置き、椅子の背に腕を預けるローの顔が妖しく歪む。嫌な予感…


「俺と別れた後…随分楽しんでたみてぇじゃねぇか」


一体何してたんだ?って…楽しそうに歪んだ口元とは逆に、ビックリするぐらい目が据わっちゃってますよローさん…


でも言うの?あの状況再現しちゃうの?!いや駄目だ、あの物真似大会は黙っておこう…うしッ!!


「あぁ、言っとくがお前の嘘はすぐにバレる。誤魔化すなんざしねぇこった」


…うしッ、シャチの分だけ話そう。すまんシャチ…これであの時私を置いてった罪は帳消しにしてやるから許せ。


─────────────ーーーー


『ってな訳で、ま〜たこの子の機嫌が悪くなったのかと思ったら、犯人はあのニャンコだったってオチですよ。いや〜本当良かったぁ』


うん、我ながら上手く纏めたと思う。とりあえず物真似大会の話は伏せ、沢山着ぐるみが有ったって事だけ話した。


シャチがやった物真似を再現すると、結局私が物真似する事になっちゃうからね!!


一通り話し終え座り直しながら、そういやあの虎毛見つかったかな?って扉を見やれば、まだ向こう側から複数の足音が行き交う気配がするから…あの子は未だ行方不明のようだ。


島に戻す前に最後、もう一回あの綺麗な虎毛を堪能しときたいなぁ。なんてソワソワしていたら、ローから盛大なため息。


「お前等とりあえず、全員分の雑用肩代わりしろ」


次の島まで毎日だ。って…呆れ過ぎて怒る気力もないって様子で、ダルそうに帽子を被り直しながら告げるロー。


『…えーっと……』


その発言に、私は今まで弛んでいた口元を引きつらせ、次の島まであと…どれくらい?そう尋ねた。


「さぁな…ペンギンにでも聞け」


投げやりに寄越された言葉の語尾は背中で受けながら、慌てて扉に向かいドアノブに手を掛けた瞬間…外側から響くノック音。誰だよこんな時に!!


『え、嘘?!本当に?!すげーッ』


イライラしつつ開けた扉の先に居たのは、まさかの目的人物。やっぱ絶対何か不思議な力が目覚めてるよ私!!


不思議そうに私を見下ろすペンギンさんの顔を、キラキラ目を輝かせジッと見つめてると、聞かねぇんならどけ。ってローに追いやられ…私は慌ててペンギンさんに詰め寄った。今は自分の力に感動してる場合じゃない!!


『ペンギンさん!!次の島まであとどれくらいですか?!』


先程とは打って変わり必死の形相で尋ねる私に、次の島?ってペンギンさんは困惑気味に眉を寄せるも、確かー…と遠くを見つめ考えだした為、私は黙って固唾を飲む。


そして次の瞬間、頭上から寄越されたペンギンさんの言葉は、巨大な石の様に、ドーンッとそのまま私の身体を押し潰した…



お先真っ暗



(お、おいミラー?どうしたんだ一体?)

(は、半月近くも休み無く働くんですね…ははは…が、頑張りますよ…)

(…そんな所で寝るな)
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