BOOK

□No.5
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「え、逃げんの?戦わねぇのかよ?」


私が小声でボソボソ作戦を告げるや否や、何やらヤル気満々に肩を回していたキャスケット君が、面食らった表情でポカンと私を見やってきた。


私はそんな面倒臭い展開に更に言葉をまくし立て、静かに難色を示す。


『あの人数見なさいよ、多すぎでしょ!面倒臭いじゃん!それに私、今貧血で戦う所じゃないの。アンタがそのBB譲ってくれんなら話は別だけど?』


そう指し示すは奴の手元の紅い果実。


「よし逃げるぞ」


後ろだな!って…あまりの変わり身の速さに私苦笑い。


そこは引かないのね。まぁ、私もこんな公衆の面前で“能力”がバレんのなんてゴメンだから、BB貰った瞬間スタタタターってズラかるけどさ。


「作戦会議は終わり?そろそろ大人しく捕まってよ、お2人さん」


錠の準備をしていたあの男がダルそうな声を寄越す。でもそれは聞けない提案だっての!


『足は?』


チラリと視線を送るその黒い足元は、幾多の傷痕が無数に伸び混じり、コイツが駆け抜けてきた歴史を蓄積させている。


「ふふふ…」


その履き慣らされてるキャスケット君のブーツを見るだけでも、私の質問の答えには十分だった。


「余裕だッ」


キャスケット君の笑い声に被せ、打てッ!とコートの男が合図を放つ。


それと同時に発泡してきた海軍共を背に、私達は勢いよく後方の路地へと飛び込んで、そのまま前方に広がる森へと駆け出した。


「チッ、追え!」


ワンテンポ遅れて激しい足音が響く。だがその距離は、縮まる所か広がる一方。


『ふふッ、逃げ甲斐ないなぁ〜』


私の首刈りの異名には、この足も一役買ってんのよね〜。なんて背後に向けていた勝ち誇った顔を前方に戻すと同時、目に飛び込むキャスケット君の白い背中。


『ふーん…』


本調子じゃないとは言え、私の前に出るなんて意外にやるじゃん。なんて感心してたら…キャスケット君が急に方向転換をして、私の右斜め後方へと凄い勢いで突っ走り始めた。


何だよ忘れ物か?


『………ん?』


…あぁ!BBアイツが持ったまんまじゃん!あの野郎このまま海軍諸とも私まで撒く気だな?!


ふっざけんなぁーッ!


その思惑に気付いた私も勢いよく、バッ!と直ぐ様方向転換!


遠く消えかかってるキャスケット君の背中を慌てて追いかけた。


『くそッ、見失った』


周囲に気を配りつつ先を急げば、海軍共はあのまま真っ直ぐ進んだみたいで喧騒が段々と遠退いて行く。


よしッ。これで問題はアイツだけ…海軍は撒けても私を撒こうなんざ百年早いんだよ!


『絶対見つけてやる!』


待ってろキャスケットー!



追いかけっこ



(ハァハァ…貧血云々抜きにしても、アイツ…私より速くね?!全然姿が見え……あッ!間抜けな後ろ姿発見ッ!)

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