BOOK3

□No.6
1ページ/2ページ



「そうよ…5日前から居るわ」


「何故奴等は、この島に滞在し続けるんだ?」


僅かな月明かりしか届かない静かな路地裏の一角。目の前で真っ赤な唇を艶めかせる女の頬に手を添え、甘い口調でそう尋ねる…香水の臭いが鼻につき、今にも吐きそうだ。


「んふふ…何でも、海軍の凄い人と戦ったんですって…動きたくても、動けないのよ」


そんな事より…そう足を絡めてくる女をさり気無くかわし、俺は更に言葉を続ける。


「そう焦るな…夜はまだ長いだろ?…そのお偉いさんの名は、聞いて無いのか?」


女の腰を引き寄せながら、耳元でそう囁けば…女は行為を急かすように、俺の首に腕を回してきた。


これ以上、コイツからは無理か…


「名前は知らないわ…けど“英雄”だって言ってたかしら」


「英雄…?」


…海軍で英雄、そして今この近辺を彷徨いていた奴と言えば…1人しか居ない。


「成る程な…」


奴等でも痛手を負うわけだ。ふふ…意外に使える女だったな。


「私…あまり焦らされるのは好きじゃないの。ねぇ…そろそろ良いでしょ?」


「……」


「きゃッ?ふふふ…」


顔を寄せて来た女の手首を掴み壁に押し付ければ、女は嬉しそうに甘い声を上げた。全くもって耳障りだ…


女がキスを求める眼差しを向けてきたのを合図に、俺はゆっくり顔を近づける…あと少しで互いの唇が触れる距離で、女が物欲しそうな舌を差し出し、静かに目を閉じた。


「…助かったよ。だが俺が欲しかったのは情報であって、残念ながらお前じゃ無い」


「え?ち、ちょっと!!」


唇が重なる直前で低くそう言い放ち、俺は女に背を向け歩き出した。


クソッ…臭いが移っちまったかもしれねぇ。


後ろで何やら女が騒いでいたが、俺はビジネスで女は抱かない主義だ…誰彼構わず言い寄ってくる奴には特に興味が無い。


島に滞在する無法者の情報は大抵、酒場かゴロツキの溜まり場…そして、その無法者の内情は、着飾った派手な女共から手に入る。島での情報収集なんざ、簡単な仕事だ。


だが…まさかミラーが仕入れた情報の主が、あの“キッド海賊団”だったとはな…厄介な事になりそうだ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ