BOOK3

□No.7
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辿り着いた酒場の前で、ツナギの上半身を脱ぎ下ろし、腰の位置で袖を固める。


背中にデカデカとその存在を主張するマークを、此処の奴等に見られては不味い。


トレードマークの帽子を脱ぎさり髪を軽く整え、黒のタンクトップが似合う好青年を装い、俺は店へと踏み込んだ。


賑わう店内に控える面を一つ一つ確認する俺の顔から、緊張感は伺えぬだろう。


「……ん?」


ほぉ。あの集団は確か、海賊まがいの暴れ馬共じゃねぇか…丁度良い。


「やぁ、此処空いてるかい?」


「あぁ?誰だテメェ」


派手に賑わうその輪の中へ、臆すること無く舞い込んだ俺の、軽やかに唄うようなその声に、リーダー格の男が不躾な視線を寄越す。


「僕、今日街の貨物船に乗って来たんだ。だけど知り合いは皆、船酔いで参っちゃってさー。良かったら付き合ってよ、1杯奢るからさッ」


「マジかよッ、なかなか出来る兄ちゃんじゃねぇか!!」


邪気を捨て去り、気さくに俺が話し掛ければ、酒の場で気分が良い奴等はすんなり俺を受け入れてくれた。


互いに酒を呑み交わしていく内に、俺の身の構えに対し、奴等の警戒心が完全に0となった所で…吹っ掛けるとしよう。


「そう言えば、今この島にキッド海賊団が居るんだって。いや〜流石にあの海賊相手に、暴れる奴は居ないかッ」


「まぁな〜。だが、あの船はキッド以外、大した事ねぇよ!!あの3億超えすりゃ居なきゃ、俺等も相手にすんだけどなッ。はっはは!!」


酒の力を借りた人間の戯れ言程、聞くに耐えないものはない。俺がキッド海賊団の一員であれば、今の一言がコイツの最期の台詞となっていた事だろう。


だが…酒の力を借りた人間の戯れ言程、焚き付けやすいものはない。


「…ここだけの話だけど、今キッド海賊団って、イエロー通りの3件目で宿をとってるんだって。そんで何故かクルーは皆満身創痍で、今は宿にキッドも居ない」


その言葉にピクッと、俺の目の前で酒を煽る野郎共が反応を示す。


「いや〜だからさ、僕も其処に踏み込めば、一気に英雄になれるし?一気にお金持ち〜って、思ったけど…やっぱり諦めるしかないよな!!僕みたいなただの商人じゃあ、返り討ちにされてオシマイだッ」


はははッ。と明るく笑うと、野郎共はギラついた目でその詳細を促した。


…掛かったな。


不自然にならぬ様、言葉巧みに奴等をけしかけ、意気揚々と酒場を後にする背中を見送る頃には、外は随分と明るくなっていた。


ふぅ…馬鹿を演じるのも楽じゃねぇな。自然体で馬鹿なシャチを尊敬するよ全く。


ツナギを着戻し、帽子を被って朝靄に包まれた街を尻目に、屋根伝いに自身の宿へと戻る。


「よっと、ん?……ハァ?」


半分以下の時間で宿の正面に位置する場所まで来た所で、道を挟んだ反対側に構える窓から見えた光景に、俺は頭を抱えた。
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