BOOK3
□No.10
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『美味しかったぁ!!』
「いや〜満腹だぜ!!」
満足気に同じポーズで腹を撫で回してる2人を見やり、俺は深くため息を吐く。これから近くにある広場へと移動するようだ。
『さってと…食後の運動、いきますかッ』
手合わせか…今は不味いかもしれねぇ。俺は一抹の不安を抱きつつ、2人の背中を眺めていた。
「あれ?船長、今日は見学するんですか?珍しいッスね」
心配しなくてもちゃんと10分で切り上げますよッ!!などと楽しそうに跳びはね、準備運動を始めたシャチを黙って見やる。
『今日こそは絶対無傷で終わらせたるッ!!』
「言ってろッ。今日は新入り初披露だからな!!へへ…」
それが問題なんだよアホ。少しは大人になってると良いんだがな…
ミラーが背中の牙を防御態勢に構えれば、シャチが鼻歌混じりに懐から真新しいジャックナイフを取り出した。
成る程、なかなか良いナイフだ。あれは今まで以上の得物になるだろう…馴染めば、な。
さぁ、どうなるか…
万が一シャチがしでかした際、すぐ対応出来る様…俺は音も無く、掌に小さなサークルを作り出しておいた。
一定の距離を置き、体勢を整える2人から会話が消える。
次の瞬間、シャチから放たれる空気が鋭さを増したのを感じ、ミラーも思わず顔をしかめたが…まだ俺が動く程じゃない。
“ジャキッ”
『ッ?!』
チッ…ここまでか。
シャチがその両手で、不揃いのジャックナイフを軽く擦り合わせ、ミラーを見やる否や…踏み込みも無く飛び出したその一瞬で、奴の目に尋常じゃない程の殺気が宿った。
目を見開き、動きを止めるミラー…俺は直ぐさま、そのミラーと、近くにあった等身大の男の像とを入れ換えた。
“ガシャーンッ”
耳に響くその音が、俺に安堵の息を漏れさせる。
「…今日は終わりだ。シャチ、ソイツを仕舞え」
ミラー、お前もだ。先程より距離をとったミラーにそう言い放つも、未だアイツは呆然と立ち尽くし、動かない…世話が焼ける。
軽くため息を漏らしつつ、俺は粉々に崩れた落ちた石像に目を向けた。鉄ならまだ、無理だったろうな。
「シャチ、自分の事だ。分かってんだろ」
「俺…はい……すいません」
目の前で原形を留めていない石像に、唖然としていたシャチは、それだけ言うと顔を伏せたまま、ミラーに目をやる事無く…唇を噛み締め、俺達に背を向け勢い良く走り去って行った。
はぁ…ったく、だからガキだと言うんだ。
「おい。いつまでボケッとしてんだ。俺達も帰るぞ」
アホみたいに口を開けたまま、シャチが消えた方角を眺め続けるミラーに声を掛ければ、やっとアイツは俺を視界に入れ…そして弱々しく、俺の名を呼び顔を曇らせた。
「…気にするな。アイツの悪い癖だ」
ミラーに歩み寄り、不安気な視線寄越す顔を隠す様、その頭へと手をやりそっと撫でてやる。
『やっぱり私の首には…2億の価値なんて無いよ』
悔しそうに漏らすミラーは、本気でそう思ってるんだろう。
まぁ…ガンガン好きに首を刈り取っていた頃よりかは、多少感覚が鈍っていても無理は無い…だが、落ち込む程じゃねぇのによ。面倒な奴等だ全く。
「シャチの名誉の為にも言っといてやる…」
その言葉に、ゆっくり顔を上げたミラーの不安面は相変わらず酷く、ついため息混じりの笑みがこぼれた。