BOOK3

□No.10
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「アイツは得物を変えると毎回、すぐ試したくてウズウズしてんだよ」


周りが見えなくなっちまう程な。そう説明しながら、ミラーがだらしなくその傍らに下ろしている黒い牙を手に取り、その華奢な背中の定位置に納めてやった。


「初回の戦闘はいつもあぁだ…別に普段、手を抜いてる訳じゃねぇ」


そんな器用な奴じゃねぇだろ。そう鼻で笑ってやっても、ミラーは未だ不安気な表情を崩さない。


「アイツのあの殺気は…ペンギンですら流せねぇ」


この言葉でミラーはやっと、その表情を驚いた様なアホ面へと変えた。


俺ですら不意討ちでは距離を取る…とは言わねぇままだ。言いたくもねぇし。


「アイツ自身、コントロール出来てねぇ…まだ潜在的なものだ。そんな心配すんな」


『でも…私あの時、シャチに勝てる気がしなかったの…受ける前から、浮き足だった』


弱々しく眉を寄せるミラーは、今にも泣き出しそうだ。


…まぁ、確かに今回は、いつも以上に突き刺さるものだったな。潜在能力ばっか上げやがって…実力を鍛えやがれ。


「はぁ…安心しろ。クルーからあんな殺気を向けられるなんざ、思わなくて当然だ」


コイツは分かってねぇが…首刈りとしての実力は、1億4千万以上は優に有るだろう。


それに加えあの能力…その厄介さを考えれば、2億で留まってんのが不思議なくらいだ…コイツに派手に暴れる気が有ればの話だがな。


「お前は…お前の思う様にやれば良い」


『ロー…私……私は…』


まぁ…丁度良い機会だ。能力者となった自分の実力と、本来の実力…この先の在り方を考える時期に差し掛かってんだろう。


だいたい、シャチの野郎も本来、それなりの額が懸けられててもおかしかねぇんだ。


ただ毎回…その落ち着きの無さですぐウロチョロしやがるから、海軍の奴等のマークから外れる…言えば、ただの馬鹿だな。


『私…私ッ、便箋買ってくる!!』


…は?


俺が黙って見守る中、散々難しい顔して悩んでいた結果出たその答えの意味が理解出来ず…俺は勢い良く走り出すミラーの腕を、慌てて掴んだ。


『海軍のトップって、誰だっけ?!本部宛に出せば届くよねッ!!』


「…は?」


その言葉に、俺の顔が引きつる。まさかこの馬鹿…自分の賞金額を、直接海軍本部と交渉する気かよ…


『あッ!!写真も要るよね?!ローッ!!カメラカメラ、カメラ持ってない?!』


「……は?」


ヤベェ、こいつの思考が全く理解出来ねぇ。何で今カメラが要るんだ。


「ミラー、とりあえず…お前が出した答えを聞こう」


目の前で、何やら指折り数えだしたミラーの頭をバラしたい衝動に駆られたが…それを抑え、俺は深いため息と共にそう尋ねた。



教えてくれ



(シャチをお尋ね者にしてもらう!!)

(…は?)

(シャチがどんだけ凄いか力説したら、賞金懸けてくれるかな?!)

(いや…)

(あとペンギンさんもでしょ?ベポも戦闘になると凄いしあとッ)

(ミラー…帰るぞ。頭が痛ぇ)

(待って、その前に便箋を…)

(必要ねぇお前も今すぐ帰るんだよ)
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