BOOK3

□No.31
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地下から逃れただけでは足りず、家屋の外まで出なければ、響く音に耳がおかしくなりそうだった。


『なんか…泣いてるみたい』


木陰に陣を取り、私がポツリとそう漏らす。するとローも、そうだな…って答えてくれた。


『“邪雲”って、何の事なんだろ…』


悲しみを含んだ悲鳴が響き渡る方をぼんやり眺めながら、私が呟いたその言葉に、隣のローは何も言わない。


『シャラクを殺ったのってね…多分、政府の人間なんだよね』


未だ悲鳴は止まない。まるで、私の代わりに泣いてるみたいだ。


『知ってるかもしれないけど…シャラクって昔、海兵だったんだ。それなのに…』


ローは黙って私の話を聞いている。やっぱり、シャラクの名前を聞いた事ぐらいあるよね。


『何で、何で殺されたのかな…もしかしたらあの時、政府の本当の目的は私達兄妹で、シャラクはその身代わりに「ミラー」…?』


取り乱し始めた私の言葉を遮ったローは、落ち着け。そう私の頭に手をやり優しく撫でた。


「今はまだ何も分かってねんだ…無駄に自分を追い込むな」


仮にお前がどんな血を引いてようが関係ねぇよ。そう言ってローは触れるだけのキスをくれた。


『ありがとう…』


悲鳴が止んだ。私の心ももう、泣いてない。


――――――----


「機嫌が悪い割には元気なやつやな」


再び地下へ降りると、ホラよ。っと牙を投げ渡された。


『あの悲鳴みたいなの…何なんですか?』


光沢を増した牙を背中に納めながらそう聞くと、ジイさんは、そんな事も知らんのか。って呆れ気味に口を開く。


「牙は生きとる。ヌシ等の牙に限らず、それは一緒や。やから研ぐと鳴くんや」


竜は特に煩い。そう言って地下を上がる階段へと向かい出したジイさんの背中を追う。


「成る程な…」


階段を上がりながら、隣のローが小さく呟いた言葉に、何が?と素直に疑問を尋ねた。


「毎回鳴かれちゃ、郊外に住むしかねぇだろ」


あー、成る程。近所迷惑って事ね。無駄に地下への階段が長いのも、もしかしたらそれが理由なのかな?


階段を登りきり、ジイさんは私達を奥の部屋に案内してくれた。どうやら区切られた向こう側の部屋は、キッチン兼客間の様だ。


「クロスロード、茶入れぇ。濃すぎんようせぇよ」


うん、客間では無いらしい。客にお茶入れさせたりしないもんね。
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