BOOK3
□No.34
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「手短に答えろ。ミラーの牙、今のままだとどうなる」
いつミラーが戻ってくるか分からない…俺の用件はなるべく早く済ませるべきだろう。
俺の意図を察しているにも関わらず、奴は口調を緩め俺を見やる。
「常識の無いガキや…それが目上の者に対する態度か」
「チッ…答えるのか、答えないのか」
ハッキリしろ。その言葉に奴は遠慮無く俺を睨み付ける。張り詰めた空気の中、奴が口を開いた。
「可能性は2つや。1つは牙が死ぬ…この先何も満足に斬れんごとなるっちゅーことや。もう1つは…牙の暴走」
ドシッと狸ジジィが、足元の巨大な海獣の頭蓋骨の窪みにへと腰を下ろす。
「望む以上を斬るようになる。その2つに1つや…黒がどちらを選ぶかは分からん」
「…黒と白は共鳴してると聞いたが」
だからジロンギーの野郎は必要以上に切り刻む。確か以前、ペンギンがそう言っていた筈だ。
「限度ってもんがあるやろ。いくら肉斬りが補ったとて、自分で首を刈れんアイツは満足せん」
呆れた様に言い放ち、階段へと繋がる扉を見やる狸ジジイ。
「奴等は軍を抜けてすぐ…一度ワシに会いに来た。牙研いでくれ言ってな」
奴等…ミラーの両親の事か。いきなり何だって言うんだ。
話の流れが読めず訝しんでいると、奴は再び俺に視線を寄越してきた。
「そん時奴等は、ちょうどキサンがおる位置で悪態ついとった…黒の鳴き声がうるせぇっちな」
その台詞に息を飲む…あの壮絶な不協和音を、こんな近くで聞いていたのか?いや…いくらなんでもそれは無理だ。だとするならば…
「前回はあれ程鳴かなかったって事か…」
俺の言葉に狸ジジィは、なかなか賢いやないか。そう鼻で笑った。
「ワシも黒が、あそこまでキとるとは思わんやったが…何故クロスロードは刈らん。黒の性格を知らん訳やないんやろ」
刈りたくても刈れねぇから、アイツも悩んでんだよ…俺が簡潔にミラーの能力を説明すると、奴は何か納得した様にため息を吐いた。
「安心せぇ。当分はまだ大丈夫やろ」
言いきる狸ジジィに、その根拠を尋ねる。
「黒はちゃんとクロスロードを好いとるっちゅーこっちゃ。大方、拗ねとるんやろ」
奴から怒りは感じんやったけんな。そう僅かに顔を弛めた奴を観察する。嘘はついていない様だ…