BOOK3
□No.35
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青雉屋と対峙しつつも、その警戒は怠らない。
今職務を全うする気は無いと言っても、相手は大将…警戒し過ぎと言う言葉は無い。
しかも今はミラーがこんな状態だ…ミラーを狙われれば厄介だろう。
殺気は抑えつつ、先程と同じ位置で腰を落ち着かせている男へと向き合う。
「シャラクと俺は馬が合わなくてな…昔はよくぶつかったよ」
ポツリと青雉屋が語りだした。
「奴が俺に掛けた最後の言葉は、今でも一言一句違わず覚えてる…」
だが未だにその真意が理解出来ない。そんな表情をしたまま青雉屋は黙りこんだ。
「…お前の昔話に付き合う気は無い」
用件は何だ。少し距離のある奴を睨み付ければ、せっかちだな…と言った様子で奴は笑い、言葉を続ける。
「あの時確かに俺は奴と…ソイツ等2人を見逃した。だが犯罪者の道を、海賊という立場を選んだのは本人達だ」
奴に恐れを抱いた訳ではない。だが、身体を包む空気が冷え込み身震いがした。
「次会う時は容赦なく…大将として、お前等の相手をしてやるよ」
そう言って再び寝入る体勢をとった奴に、俺は無言で背を向け歩き出した所で再び声が投げ掛けられたため、視線だけ後ろにやった。
「クロスロード・アクレス、ラークロイド・アルバ…2人の名だ」
その姉ちゃんに教えてやんなさい。それを最後に寝息が響く。俺は今度こそ、中心街に向かって歩き出した。
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途中寄った薬屋で面白い物を見付けた。
ユースタス屋にストックボトルを破壊された今、早急に代えの何かを探さなくては…そう思っていた矢先だったため、俺は躊躇う事無くソレに手を伸ばす。
薬屋を出て路地裏に向かい、人影が失せ暗がりが包み込む階段へと腰を下ろし、未だ苦しそうに眠るミラーに口移しで薬を飲ませた。
『ん…ロー…』
「起きたか」
ゆっくり額を撫で付けてやれば、聞こえてくるのは寝息だけ…どうやら寝言だった様だ。紛らわしい。
結局ミラーは、宿に着いても目を覚ます事は無かった。しかし苦痛は消えたのか、穏やかな表情で豪快にヨダレを垂らしている。
「あッ!!おかえりッス!!船長治った、何か急に治った!!」
階段で鉢合わせたシャチが足取り軽く近寄ってきた。
「うぉ?!ミラー?!どうしたッ!!」
また敵襲か?!そう1人アタフタ騒ぎ立てるコイツに肩の力が一気に抜ける…どうやら、それなりに緊張が続いていたらしい。
「心配するな。お前の症状がミラーに戻っただけだ」
だから少し黙れ。そう教えてやれば、シャチは安心しきった様にホッとため息を漏らす。
だが次いで、此方へ近付いてくる激しい足音…
「キャプテン!!大変大変!!大変ッ!!」
今度は何だよ…慌てて階段を駆け降りて来たベポへと呆れ気味に顔を向ければ…
「ッ?!」
その口がとんでも無い事を告げてきたため、俺はシャチにミラーと牙を預け、4階の部屋へと向かった。