BOOK3
□No.42
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「…それで、どうしたんだ?」
『ズピッ…うん…3日間、引きこもった』
私はローの厚い胸板に顔を埋めた。この数時間で既にローの胸も、シーツも…私の鼻水と涙でグショグショだ。
『3日間…本当に脱け殻でさ、このまま飲まず食わずでいたら、あと何日で死ねるのかなぁ…なんて考えてたんだ』
ローがそっと頭を撫でてくれる…大丈夫、私はもう…あの時とは違う。ちゃんと前を向いてる。
『そしたら…ジギーがね、血だらけで立ってたの。私の目の前に』
驚きは無かったな…多分、脳が働く事を拒んでたんだと思う。
『で、バーンッ!!て平手打ち。痛かったなぁ、アレは…』
あの時のジギーを思い出しながら笑って言うと、アイツが手をあげるとはな…ってローは驚いていた。
『うん…後にも先にも、ジギーが私を殴ったのはあの一回だけ…』
だからあの一発は、凄く大きい。私に“生きてる”と感じさせてくれた、強い一発…
ジギーも辛かった筈なのに…私ばかり被害者みたいに縮こまって、現実から逃げて…ジギーに全部押し付けて、本当最低だよね。
『物凄い形相で怒鳴られたんだ…お前は、シャラクから受けた愛情を踏みにじる気かーって』
ローは黙って続きを促す。そうやってずっと私のペースで話を聞いていてくれている。
『俺をお前の中から追い出すなんざ許さねぇ!!って怒られちゃって…ジギーは、1人でも戦ってたんだ。シャラクの意志を絶やさないため…私を、守るため』
結局私は…常に2人に守られながら、生き永らえているだけだったんだ。
『ジギーが、凄く辛そうな顔で私を見るの…ミラー、生きよう。今のミラーをシャラクに会わせる訳にいかねぇ!!って』
「それで目が覚めたのか?」
常にローの口調は柔らかい。ローらしく無いのは事実だけど…今だけは…それが嬉しい。
『…うん。私は、ジギーにこんな顔させるために力を…シャラクから貰ったんじゃない!!って。急に視界が開けたの』
(守るために、強くなるよ)
こんな私を見たらシャラクも悲しむ。そう思ったら急に、生きなきゃ!!そう思った。
『その後2人で山に猪狩りに行って…あの時は本当、お腹はち切れそうなぐらい食べたなぁ。3人分を…2人で分けてさッ』
そして誓ったんだ。シャラクの墓前に…必ず、必ず約束は果たすよって。
「…日記はどうしたんだ」
『…燃やしたよ。あの家と一緒に、全部…それがシャラクの望みだったから』
そうか…それだけ言ってローは私の頬を拭ってくれた。もう涙は乾き始めてる。
『崩れ落ちる、家を見てね?ジギーと決めたの…互いに親の名を名乗り、隠す事無く牙を出そうって。そうすれば、早く気付いてもらえるかもしれないでしょ?』
あの燃え盛る熱気は、一生私の肌に焼き付いたままだろう…ジギーと固く握り締め合った、手の痛みも。
「…良かったのか?」
ローが心配そうな視線を寄越して来た。
『日記の事なら…大丈夫だよ。私にはシャラクに貰った牙があるから』
私にとってあれは、実の親から継いだ物じゃない。シャラクから与えられた大事な相棒。
(自分を信じろ)
シャラクが背中を押してくれたから、手にする事が出来たんだ。