BOOK3
□No.45
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「シャチ、まだか。もうお前だけだぞ」
「ま、待ってあと少し!!」
「はぁ…もうログは貯まってんだ。早くしろ」
俺は皆から預かった手紙の束を調えながら、未だペンを走らせるシャチを急かした。
他の奴等には既に出航準備に向かわせている。そろそろ完璧に陽も登りきるだろう…予定より遅れそうだ。
「っしゃ書けた!!」
コイツのせいで。
ペンを持つ手をプラプラさせているシャチから、ギッシリ黒く埋められた紙をぶん取り、ミラーの元へ持って行こうと腰を上げた瞬間…室内にノック音が響いた。
「なんだミラーか、丁度向かおうと思っていたんだ」
扉を開けると、何故か困った表情のミラーが大事そうに程よい厚みの封筒を抱えていたため、俺も手元の束を差し出す。
『う?何ですかこれ?』
「皆もジロンギーに伝えたい事があったらしい。昨夜急いで書いたんだ」
一緒に入れてもらえるか?そう聞けばミラーはパァッと顔を明るくし、勿論ッ!!と快く束を受け取ってくれた。
『へへ、パンパンになっちゃった…あッ!!ペンギンさん、糊持ってますか?用意するの忘れちゃって!!』
どうしよ、このままじゃ送れない!!そう頭を抱えるミラーに、船長は?と聞けば、まだ部屋に居ます!!なんて…それどころじゃない、と言った様な切羽詰まった返事が来た。
「これ以上出航を延ばすのもアレか…シャチ、そこの蝋燭取ってくれ。マッチもな」
え?何か言った?と未だに痛むらしい利き手を労るシャチに、蝋燭を…取ってくれ。そう微笑んで言えば、何故かミラーがズササッ!!と俺から距離を取りやがった。
「わ、悪い。はいッ蝋燭…と、マッチ」
シャチの手から指定の物を受け取ると同時に、船長を呼んで来るよう指示を出す。
すると奴は勢い良くブンブン顔を縦に振り走り去って行ったが…あの野郎、首はもう大丈夫なのか?
“シュボッ”
あっという間にシャチが姿を消した曲がり角をため息混じりに眺めながら、蝋燭に火を灯す。そして俺は溶け出した蝋で封を閉じた。
『あッ、凄い!!これなら大丈夫ですね!!』
「有り合わせで済ませてしまったが…届かない事は無いだろう。焼き印も用意出来なかったがな…」
『問題無いですよ!!』
やっぱり持つべきモノはペンギンさんですねッ。そう喜ぶミラーの頭をそっと撫でる。
「早く…見つけてやろうな。両親を」
そう告げる俺へと、ミラーは一瞬キョトン、とその大きな目を傾けてきたが…直ぐ様、ハイッ!!と元気な返事をくれた。
やはり…ミラーには笑顔が一番よく似合う。
本当に強い子だ…今の笑顔を見せられるようになるまでの道程は、決して楽なものではなかっただろう。